富士フイルムは「倒産のコダック」に勝ったのか 日米の「イノベーションの効率」を問い直す

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日本企業とアメリカ企業では、企業の年齢と稼ぐ力の間に大きな違いがあることがわかります。アメリカ企業は年齢と稼ぐ力との間にそれほど大きな関係はなさそうです。強いて言えば、アメリカ企業は設立から徐々に稼ぐ力を上げ、40歳代に入ってもそれを維持しています。100歳を超えると加齢とともに、わずかながら収益性を落としていきます。しかし、それはわずかです。

これに対して、日本企業は13歳で稼ぐ力のピークを迎えています。そこから、加齢とともに、稼ぐ力がどんどん落ちていきます。100歳を超えるとサンプルの企業の数が減り、平均ROAが個別企業のパフォーマンスに大きな影響を受けるようになるので、グラフにやや凸凹がでてきますが、傾向は変わりません。

日本の成長戦略の抜本的な見直しを

このように、日本企業は若いときのピークを過ぎると、どんどん稼ぐ力が落ちていく傾向が顕著です。言い換えれば、アメリカ企業は加齢の影響を受けにくく、日本企業は加齢の影響が大きいのです。もちろん、企業は市場で競争していますから、100歳を超えても生き残っている企業は、生産性が低いわけではありません。生産性が低ければ、市場から撤退せざるをえないはずです。

とはいえ、アメリカ企業に比して、日本企業が加齢とともに稼ぐ力を落としていく傾向は深刻に見えます。日本企業は、短期的な利益を追求するよりも、より長期的な視点に立って経営を行ってきたと言われてきました。しかし、もしも本当に長期的な視点に立って経営がなされているとすれば、年齢とともに収益性は上がってきてもよさそうなものです。長期的な視点という名のもとに、重要な意思決定を後回しにしてきたのかもしれません。

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このことが示唆しているのは、企業単位で脱成熟を実践している日本よりも、次々と行われるスピンアウトによって脱成熟を実践しているアメリカのほうが、社会全体として考えればイノベーションの効率がいいかもしれないということです。

近年、イノベーション研究は日進月歩で進んでおり、これまでの常識を覆すような成果が次々と生まれています。上記の議論についても、一方で、スピンアウト競争の弊害(『安易に「人材の流動化」に走る日本企業の末路』)についての研究もあり、総合的に考える必要があります。日本の政策担当者も、ぜひ最新経営学の知見をフォローして、成長戦略の見直しを考えてほしいと思います。

清水 洋 早稲田大学商学学術院教授

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しみず ひろし / Hiroshi Shimizu

1973年神奈川県生まれ。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。ノースウエスタン大学歴史学研究科修士課程修了。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスでPh.D.(経済史)取得。アイントホーフェン工科大学フェロー、一橋大学大学院イノベーション研究センター教授を経て現職。『ジェネラル・パーパス・テクノロジーのイノベーション―半導体レーザーの技術進化の日米比較』で日経・経済図書文化賞と組織学会高宮賞受賞。

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