「出棺前に父の棺に花を入れるときに、妹が父の頬をさすりながら泣いていました。その妹の肩を優しく抱く義弟も泣いていました。妹の子どもたちは、まだ死を現実として捉えられていなかったと思いますが、小さな手で、花を棺の中に入れていました。
私は、そんな妹家族の姿を見ていたら、胸が痛くなった。心の中で、『お父さん、結婚もせず、孫の顔を見せてあげることもできず、ごめんなさい』と謝りました」
そして、父の葬儀を終え、四十九日を終えた頃、万里子は奏太と別れることを決意した。
別れを悲しむどころか安堵の表情を浮かべた
別れ話をするために、彼の家へと向かった。
心のどこかでは別れたくなかった。でも、もうじき40歳になってしまう。離婚するかどうかわからない恋人に、振り回されているのはもう限界だった。
別れを切り出すと、奏太はうっすら涙を浮かべ、伏し目がちになりながらも安堵の表情を浮かべた。
「万里子の大事な6年を無駄にさせちゃったね。ただ、別居中の妻にも後ろめたさがあるから、僕からは離婚が言い出せるような状況じゃない。考えたら、僕は結婚不適合者なのかもしれない。もう46歳だし、子どもを授かって父親になることもないと思う。万里子は、早くいい人を見つけて、温かな家庭を築いてほしい」
その言葉を聞いて、それまで一生懸命に物分かりのいいクールな女を演じてきたタガが外れた。そして、力任せにテーブルとドンとたたき、自分でも驚くくらいヒステリックに怒鳴り散らした。
「最後はそれで終わり? 人を甘く見るのもいい加減にして! 本当にあなたは男のクズね!!」
奏太につかみかかっていったが、彼はされるがままで何の抵抗もしなかった。かつてつかみかかってきた妻をつき飛ばし、骨折させたことを覚えていたのかもしれない。
そのとき、奏太が言った言葉が今でも忘れられない。
「万里子に罵られて憎まれたほうが、今の僕は楽だよ」
こうして別れたのだが、その後の半年間はつらかった。
「それからしばらくは、彼のことばかり考えていました。もしも彼が私の前に現れて、『俺には、万里子がいないとダメなんだ。戻ってきてくれ』と抱きしめられたら、きっとよりを戻していたと思います」
しかし、彼が追ってくることはなかった。何度もかけたくなる電話、入れたくなるLINEを我慢した。また、電話がかかってくるんじゃないか、LINEがくるんじゃないかと携帯を片時も離さずチェックしてしまう自分がいた。
「この連載に、失恋したときって“喪の作業”をする期間があると書いてありましたよね(「年収1500万35歳の男が『お断り』された理由」)。まさに、この半年は、私にとって“喪の作業”の期間でした。出さない手紙も書きました。そして、今月40歳になって、とにかく動き出そうと思ったんです」
40歳という年齢は、確かに崖っぷちだ。しかし、自分の人生のレールは、自らが敷いていくしかない。婚活によって結婚相手に必ず出会えるという保証はないのだが、可能性を信じて前に進むことが大事だ。
幸せな未来を手に入れるのは、自分次第なのだ!
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