チャレンジを許す社会を 松下電器元副社長・水野博之氏③

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みずの・ひろゆき 1929年生まれ。52年京大理学部物理学科卒、松下電器産業に入社。一貫して技術・開発畑を歩み、90~94年副社長。米スタンフォード大顧問教授、高知工科大副学長などを歴任。米国のベンチャー事情や産学連携にも詳しい。

ハードにしてもソフトにしても、今までないものを生み出す力(コンセプトをつくる力)が日本には欠けている--。前回でそう述べました。ではどうやったら育てることができるか。大切なことは既成の概念にチャレンジできるか、そして社会がそれを許容するかどうかです。

 18世紀に「馬車と帆船による交通」だったのが、19世紀になると蒸気機関に取って代わります。これはスムーズに移行したと思われるかもしれませんが、実はそうではありません。蒸気機関が普及するには少数の異端者による努力があったのです。この時代の有力誌には、馬車と比べ蒸気機関車がいかに危険で無用であるかが述べられています。でも先覚者たちは既成の価値観に挑んだ。そうした挑戦を生み出す土壌があるかが大事なんです。蒸気機関があったから産業革命は可能だった。

アメリカに学ぶことはまだまだたくさんあります

私が苦々しく感じているのは、アメリカ発の金融・経済危機が起きて、まるでアメリカの資本主義すべてがダメかのように論じる風潮です。とんでもないことです。

一例を挙げましょう。私は、あるアメリカの投資ファンドのシニアアドバイザーをしていますが、彼らのやり方を見ていると、日本はいかに工夫が足りないかがわかります。

このファンドは優れた技術やノウハウを持っている日本の中堅企業に3~5年単位で投資をし、いい企業に磨き上げたうえで転売するというファンドです。カネも出すが優秀な経営陣も送り込む。投資先の技術や経営内容を見極めて、リスクを取りながら投資のリターンを追求しています。企業の側も、資金を得られるうえに経営の質を高められるというメリットがあります。

残念ながらこうした金融の仕組みも日本からは生まれてはきません。私は松下電器(現パナソニック)にいたときからさまざまなベンチャーへの投資にかかわってきましたが、新しい産業を育てようというアメリカの健全な資本主義の精神、発想には、いつも発見がありました。金融界でも産業界でもアメリカに学ぶことはまだまだたくさんあります。

日本でも不況色が強まり、これまでに替わる産業が期待されています。従来型の産業であっても、たとえば農業でも規制や手続きをもっと簡素化して、斬新なアイデアを取り入れやすくしたらどうでしょう。旧弊を打破すれば、収益性に優れた強い農業に変われるのではないか。チャレンジを邪魔しないような社会に変わってほしいものです。

週刊東洋経済編集部
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