安易に「人材の流動化」に走る日本企業の末路

日米間の「競争」に隠された巨大な不公平の壁

そこで日本政府は、人材の流動化を促進するため、さまざまな労働市場の改革を行ってきました。しかし、今のところ、企業側が「雇用の調整弁」として派遣労働者や非正規雇用を都合よく使うという弊害が目立つだけで、人材の流動化がイノベーションの活性化に寄与しているとはとても言えない状況です。

そもそも人材の流動性を高めることは、本当にイノベーションにとっていいことなのでしょうか。

「スピンアウト競争」の弊害

私が半導体レーザー業界を調査した結果、人材の流動性が高まり、研究者やエンジニアが企業の外に「スピンアウト」して競争するようになると、技術開発の水準がかえって低くなってしまう可能性があることがわかりました。

なぜなら、スピンアウトが盛んな社会では、他者に先駆けて魅力的なサブマーケットを開拓することが成功のカギを握るので、優秀な技術者の間で「出し抜き競争」が起こりやすくなるからです。

スピンアウトのタイミングが早まると、既存企業にとっては、研究開発の途中でプロジェクトチームから優秀な人材が抜けてしまうことになり、技術開発の成果が当初の見込みよりも低くなってしまいます。

一方で、スピンアウトした技術者も、まだ技術が成熟する前に飛び出してしまうため、追加的な開発投資を最小限に抑えようとして、手っ取り早く商品化できる「手近な果実(ロー・ハンギング・フルーツ)」に狙いを定め、お金を得ようとします。

つまり、出し抜き競争が起こると、下記グラフが示すように、(1)スピンアウトするタイミングがtからt-1へと前倒しされる結果、(2)技術進化の軌道が点線まで下がり早い段階で収束してしまうのです。

(出所)清水洋『野生化するイノベーション』新潮選書
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