「全員出世を目指す」日本の働き方は無理すぎる 日本企業は「ジョブ型が標準」へ転換できるか

✎ 1〜 ✎ 26 ✎ 27 ✎ 28 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
中野円佳(なかの まどか)/1984年、東京都生まれ。ジャーナリスト。東京大学大学院教育学研究科博士課程在籍。2007年、東京大学教育学部卒、日本経済新聞社入社。金融機関を中心とする大企業の財務や経営、厚生労働政策などを担当。2014年、育休中に立命館大学大学院先端総合学術研究科に提出した修士論文を『「育休世代」のジレンマ』として出版。2015年に新聞社を退社し、「東洋経済オンライン」「Yahoo!ニュース個人」などで発信をはじめる。現在はシンガポール在住(撮影:尾形文繁)

中野:労使の「共有化された予想」を大きく変える「ビッグ・プッシュ」、つまり現在ある制度から、別の望ましい制度に移行させるために、外生的な大きなショックを加えることが必要だとされています。

:変化はあります。例えば日立は徹底してグローバルな人材活用ということで、ジョブ型を標準にしていかないといけないという確信が中西宏明会長にある。新卒一括採用でいきなりジョブ型にするのは僕はハードルが高いと思うけど、経営側の認識は確実に変わりつつありますよね。

ジョブ型の提言はこれまでずっとしてきて、その中で労働条件を明示する必要があるということを言ってきたわけだけれど、法制化は経営側に抵抗があった。ところが経営側のスタンスが変わってきたので、今までの提言の積み残しをもう一度出して、1歩進められないかと動いているのが最近の規制改革会議の議論です。

中野:日立のように「抜本的に見直します」「グローバルで制度をそろえます」という事例はともかくとして、1社の中にジョブ型と無限定が併存するとなると、どういった人が無限定のほうを選ぶようになるのでしょうか。

:理系は専攻が細分化されていて、研究室の推薦などが従来からあり、すでにややジョブ型に近い側面があります。でも文系は大学でやったことがなかなか職務に直結する形ではないですよね。企業は結局のところ地頭や、私が「性格スキル」と呼んでいる非認知能力などを見て採用しています。

新卒一括採用は今の形から大きく変わらず、ただ入社10年くらいになるときにジョブ型にいくのか、今までの総合職的に昇進していくポジションにいくのか、分かれていく形がいいのではないでしょうか。すでに中途採用が増える中で、中途の人はジョブ型に近い配属をしている企業も多いと思います。

日本企業が目指すべきジョブ型と無限定の構造

中野:入社10年程度で、無限定に働き昇進するエリートコースが一部あり、それ以外の人はジョブ型になっていくイメージでしょうか。

海外でもファストトラックで選別されて、エリートコースに最初から乗っている人はいて、相当厳しい働き方していて日本の無限定社員に近い印象です。

ただ、ジョブ型のほうにも、ある程度その領域で幹部候補になっていく人は出てくるはずなんですね。ジョブ型になったら幹部になれないというわけではなく、そのコースもある。普通の大多数の正社員はジョブ型、幹部を目指す人の中にもジョブ型と無限定といるイメージですね。無限定は残るとは言ってもかなり限定的です。

『なぜ共働きも専業もしんどいのか~主婦がいないと回らない構造』(PHP新書)書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

中野日本は正社員総合職なら基本的に無限定社員で、誰もが社長など上を目指すような競争をしています。それが、裁量権がそれほどない人にまで、長時間労働や望まない転勤をのまねばならない構造をもたらしていた。

でもジョブ型が大多数になっていくと、皆がそれをやらなくてもよくなる。一方で、じゃあそちらにまったく昇進がないかというとそうではなく、その分野のプロになっていく道もあるということですね。

:皆が同じような競争をするのではなく、ジョブ型が増えていくと専門の多様性も出てきます。流動性が高い、つまり人の出入りが多い企業は利益率が高いという調査結果も出ています。

人の出入りがなく閉じた組織で、新卒で皆が上がっていくところはやはり硬直化してしまう。同質性が高すぎるんですよね。生産性を上げるためには多様性が必要で、それは性別とか国籍とかだけではなくさまざまな専門を持った人が集まることが必要です。

中野経験や価値観の多様性がある組織はイノベーションが起きやすいという研究結果がありますよね。同じような経験をした人ばかりでは新たなアイデアは生まれませんね。そうした発想が労使ともに広がるといいですね。

(後編に続く)

中野 円佳 東京大学男女共同参画室特任助教

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

なかの まどか / Madoka Nakano

東京大学教育学部を卒業後、日本経済新聞社入社。企業財務・経営、厚生労働政策等を取材。立命館大学大学院先端総合学術研究科で修士号取得、2015年よりフリージャーナリスト、東京大学大学院教育学研究科博士課程(比較教育社会学)を経て、2022年より東京大学男女共同参画室特任研究員、2023年より特任助教。過去に厚生労働省「働き方の未来2035懇談会」、経済産業省「競争戦略としてのダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」「雇用関係によらない働き方に関する研究会」委員を務めた。著書に『「育休世代」のジレンマ』『なぜ共働きも専業もしんどいのか』『教育大国シンガポール』等。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事