中野:労使の「共有化された予想」を大きく変える「ビッグ・プッシュ」、つまり現在ある制度から、別の望ましい制度に移行させるために、外生的な大きなショックを加えることが必要だとされています。
鶴:変化はあります。例えば日立は徹底してグローバルな人材活用ということで、ジョブ型を標準にしていかないといけないという確信が中西宏明会長にある。新卒一括採用でいきなりジョブ型にするのは、僕はハードルが高いと思うけど、経営側の認識は確実に変わりつつありますよね。
ジョブ型の提言はこれまでずっとしてきて、その中で労働条件を明示する必要があるということを言ってきたわけだけれど、法制化は経営側に抵抗があった。ところが経営側のスタンスが変わってきたので、今までの提言の積み残しをもう一度出して、1歩進められないかと動いているのが最近の規制改革会議の議論です。
中野:日立のように「抜本的に見直します」「グローバルで制度をそろえます」という事例はともかくとして、1社の中にジョブ型と無限定が併存するとなると、どういった人が無限定のほうを選ぶようになるのでしょうか。
鶴:理系は専攻が細分化されていて、研究室の推薦などが従来からあり、すでにややジョブ型に近い側面があります。でも文系は大学でやったことがなかなか職務に直結する形ではないですよね。企業は結局のところ地頭や、私が「性格スキル」と呼んでいる非認知能力などを見て採用しています。
新卒一括採用は今の形から大きく変わらず、ただ入社10年くらいになるときにジョブ型にいくのか、今までの総合職的に昇進していくポジションにいくのか、分かれていく形がいいのではないでしょうか。すでに中途採用が増える中で、中途の人はジョブ型に近い配属をしている企業も多いと思います。
日本企業が目指すべきジョブ型と無限定の構造
中野:入社10年程度で、無限定に働き昇進するエリートコースが一部あり、それ以外の人はジョブ型になっていくイメージでしょうか。
鶴:海外でもファストトラックで選別されて、エリートコースに最初から乗っている人はいて、相当厳しい働き方していて日本の無限定社員に近い印象です。
ただ、ジョブ型のほうにも、ある程度その領域で幹部候補になっていく人は出てくるはずなんですね。ジョブ型になったら幹部になれないというわけではなく、そのコースもある。普通の大多数の正社員はジョブ型、幹部を目指す人の中にもジョブ型と無限定といるイメージですね。無限定は残るとは言ってもかなり限定的です。
中野:日本は正社員総合職なら基本的に無限定社員で、誰もが社長など上を目指すような競争をしています。それが、裁量権がそれほどない人にまで、長時間労働や望まない転勤をのまねばならない構造をもたらしていた。
でもジョブ型が大多数になっていくと、皆がそれをやらなくてもよくなる。一方で、じゃあそちらにまったく昇進がないかというとそうではなく、その分野のプロになっていく道もあるということですね。
鶴:皆が同じような競争をするのではなく、ジョブ型が増えていくと専門の多様性も出てきます。流動性が高い、つまり人の出入りが多い企業は利益率が高いという調査結果も出ています。
人の出入りがなく閉じた組織で、新卒で皆が上がっていくところはやはり硬直化してしまう。同質性が高すぎるんですよね。生産性を上げるためには多様性が必要で、それは性別とか国籍とかだけではなくさまざまな専門を持った人が集まることが必要です。
中野:経験や価値観の多様性がある組織はイノベーションが起きやすいという研究結果がありますよね。同じような経験をした人ばかりでは新たなアイデアは生まれませんね。そうした発想が労使ともに広がるといいですね。
(後編に続く)
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