規模拡大より「やりたい気持ち」を重視する理由 内田和成×遠山正道「好きになる組織」論
内田:自分で一国一城の主になれる領域を勝手につくればいい、と。自分で課題を発見したり、生み出すAは簡単にリプレースされませんが、そうでない人は、自分では必要とされているBだと思っていても、周りから見ると実はCになっているリスクもありそうですね。
遠山:すごくあります。通常の仕事は課題を与えられて、そこでブレストしたり、試作品をつくったりして、そのためのお金がクライアントからもらえます。これはこれでラッキーですが、いちばん大変なのは、課題を設定するところで、頭から煙が出るほど考えなくてはなりません。
だから、小さなことでいいので、課題を自分で考え、金がなくてもやってみる。Aになりたいなら、今の職場を利用しながら、自分が何をやりたいのかを考え、早めに小さく試す癖をつけたほうがいいと思いますね。
小規模事業の集合体をつくりたい
内田:将来のことを伺いたいのですが、スマイルズではすでに8事業ほど展開されています。今後も、小さいけれどもやりたい事業を20、30と増やすのか。それとも、スープストックトーキョーのように第2、第3の柱となる事業をつくって企業を盤石にしようとお考えでしょうか。
遠山:今のところは、前者でしょうか。仕事と人生がそのまま重なるといいと思っています。例えば、スマイルズも出資させていただいている森岡書店。これは、「1冊の本を売る本屋」というコンセプトがユニークだと、海外メディアにも取り上げられるほど評判になっています。銀座の5坪ほどの店なので、自分1人の給料さえ賄えればいい。
これが150坪で賃料が5000万円もかかれば、とても1冊の本ではできないし、普通の本屋になってしまいます。
檸檬ホテルの場合も、1日1組ですが、3カ月先まで予約がいっぱいです。小さいからリスクが少なく、思い切ったことできてその分、遠くまで届く。また、小さいことでユニークネスが担保され、その人の興味や情熱や人生がそのまま重ねられて、エネルギーが出てくる。それを会社が使わない手はないと思っています。
内田:経営学では、どんどん大きくするスケーラビリティーが大事だと説きますが、そうではなく、小さくてもいいので自分で発案し、推進するエンジンとなって尻ぬぐいもできる人にたくさん来てほしいし、そういう人に育ってほしいとお考えなのですね。