規模拡大より「やりたい気持ち」を重視する理由 内田和成×遠山正道「好きになる組織」論

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遠山:スマイルズには、役所のような予算はありません。役所では予算を組むと、1年間は予算要求したり決定したりしたときに想定していたことを実行するだけです。

内田和成(うちだ かずなり)/早稲田大学ビジネススクール教授。東京大学工学部卒業。慶應義塾大学経営学修士(MBA)。日本航空を経て、1985年ボストン コンサルティング グループ(BCG)入社。2000年6月から2004年12月までBCG日本代表、2009年12月までシニア・アドバイザーを務める。2006年には「世界の有力コンサルタント25人」(アメリカ『コンサルティング・マガジン』)に選出された。2006年より早稲田大学教授。ビジネススクールで競争戦略論やリーダーシップ論を教えるほか、エグゼクティブ・プログラムでの講義や企業のリーダーシップ・トレーニングも行う。著書に『仮説思考』『論点思考』(以上、東洋経済新報社)、『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』(編著)、『異業種競争戦略』(以上、日本経済新聞出版社)、『スパークする思考』(角川oneテーマ21)、『プロの知的生産術』(PHPビジネス新書)などがある(撮影:黒坂浩一)

期中に想定していなかったことや新しいことに予算は使わない。一方、スマイルズは役所とは違うので、いつでも新しいことは始められるのですが、そのためにプールしている費用もないので、人繰りもお金もその都度工面しなくてはなりません。

内田:それは自由でフレキシブルでいいような反面、企業としては予算に沿って数字を見ていないと、危なっかしい気がします。その部分はどうしているのでしょうか。

遠山:事業ごとに今期はこのくらい売ろうね、というのはあります。ただ、来年度はこの計画をやると、あらかじめ決めて実行することはないし、スープストックトーキョーを3年で何店舗にしようというように目標ももちません。

例えば、「100本のスプーン」というファミリーレストランは、行列ができるほどの人気ですが、3店舗しか展開していません。デベロッパーから引き合いがあっても、自分たちにやる理由がない限りはやらないのです。そもそも100よりも1000が偉いという価値観もないので。

規模拡大よりも、自己実現を尊重する

内田:なるほど。売上や利益の目標から逆算して「これをやらないといけない」という発想はないし、スケールも追わないということですね。ただし、上場すると、そういう制約ができそうですね。

遠山:だから、上場はしません。うちには上場するつもりで来ている人もいないと思います。

内田:事業をやっている人たちのモチベーションはそこにはなく、やりたいことをやるための自己実現の場が会社だと思っているわけですね。遠山さんは経営者として、自分で好きなことをやりつつも、会社の事業をしている人たちにそういう場をいかに与え続けられるかも考えていらっしゃるのですか?

遠山:そうですね。やはり「自分ごと」であることが大事だと思っているので、うちには小さなビジネスがいろいろとあります。

例えば、1日1組限定で宿泊できるアート作品「檸檬ホテル」の事業では、言い出した社員が、まだ物件が決まっていない段階で、奥さんに黙って東京の家を売り払い、現地の香川の豊島に移り住もうと考えていたのです。それくらいの「自分ごと」だと、プロジェクトの本気度は違ってきます。

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