「糖質制限」極端なやり方が健康に害をなす危険 体重は減っても死亡率が高まる可能性がある

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複数の研究で同様の傾向が確認されると、結果の信頼性が増します。単純に解釈すれば、炭水化物の摂取量は多すぎても少なすぎても悪く、ほどほどがよさそうです。

炭水化物の摂取割合が減ると、代わりにタンパク質と脂質の摂取割合が増えます。この研究では、同じ低糖質食でも、タンパク質と脂質を動物性食品からとると死亡率が高く、植物性食品からとると死亡率が低いことが示されています。全体では炭水化物の摂取割合が低い群で動物性食品の摂取割合が高いので、炭水化物が少なすぎることが悪いのではなく、動物性食品のとりすぎが悪いのかもしれません。栄養と健康の関係は複雑です。

割に合わない「糖質制限」

先にも述べたとおり、糖質制限食についてはさまざまな病気を予防できると主張されることがあります。しかし、短期的な検査値が改善したというデータはあるものの、極端な糖質制限食を推奨する医師も長期的なデータは提示できていません。「糖質制限食がさまざまな病気を予防する」という主張に、臨床的な証拠はほとんどないのです。

「糖質制限食で血糖値が下がる」という理屈が持ち出されることがあります。確かに、糖質を制限すると短期的には糖尿病の患者さんの血糖値が下がるという研究はあります(Snorgaard O et al., Systematic review and meta-analysis of dietary carbohydrate restriction in patients with type 2 diabetes., BMJ Open Diabetes Res Care.2017 Feb 23;5(1):e000354.)。しかし、短期的に血糖値が下がっても、長期的な健康や長生きにつながるとは限りません。そもそも、糖尿病ではない人には適用できません。

まれに「人類が進化してきた過程では食物を狩猟採集に頼っており、その食事内容はきわめて低糖質であった。よって糖質制限食は人類の体に合っている」という理屈で糖質制限食が推奨されることもあります。

しかしながら、農耕を始める前の人類の平均寿命が短かったことを考えると、あまり説得力がありません。現代は、歴史上で最も平均寿命が長い時代です。現代の食事が最適とは限りませんが、そこからあまりにも外れた食事はリスクが高いと私は考えます。

以上の結果からは、「健康のために糖質を制限しよう。ご飯やスパゲティは我慢。その代わりに肉を食べよう」という食生活は、我慢を強いるにもかかわらず、逆に死亡率を上げるリスクがある意味のないものだと考えられます。

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