こんなに?地図と「ズレてしまった」鉄道路線 7月「長崎トンネル」は一歩間違えれば大惨事

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続いては、グランドアンカーと呼ばれる強い引張力で構造物を支える棒を地下駅に接続し、もう片方をさらに地下に向けて垂直に打ち込んだ。上野駅が地下水によって浮き上がらないようにするために用いられた長さ16mのグランドアンカーの数は603本に上った。こちらの工事は2005(平成17)年10月に完成し、地下水の位置が地表から7.5mまでであれば駅は浮上しない。

JR東日本によると、今後も地下水の水位が上がったときに備えてさらなる対策を講じる予定だという。究極の方法としては、大量の地下水をJR東日本がくみ上げて、水道水として一般家庭や企業に供給してもよいかもしれない。

●JR北海道・日高線厚賀―節婦(せっぷ)間

これまで長々と記してきたのは、日高線厚賀―節婦間の線路を紹介したかったからだ。この区間を含む日高線の鵡川―様似間116.kmでは現在列車の運転が行われず、営業の廃止が濃厚となっている。

利用者が少ないことが最大の理由であることは間違いない。加えて、なぜここまで追い込まれたのかは、厚賀―節婦間の線路を見ると理解できる。なお、この区間では線路が移動したのではない。線路の周囲の地形が大きく変化、具体的には海岸線が移動したのである。

海岸線が線路まで迫る

厚賀駅から5.5km先の大狩部(おおかりべ)駅を経て節婦駅までの7.5kmの線路は、ほぼ全線にわたって海岸に沿って敷かれた。太平洋の波しぶきは穏やかに晴れた日でも割合高い。走行中の車両にも容赦なく海水が降り注ぐほどの状況であった。

日高線厚賀―節婦間は海岸線に沿って走っている。現状では営業再開の見通しが立たない(筆者撮影)

日本の国土は四方を海に囲まれているが、案外海岸沿いの区間は少ない。明治期に列強諸国の軍艦からの攻撃を防ぐために、海沿いを行く鉄道の敷設を許さなかったのはその一因だ。そして何よりも、厳しい塩害や波による浸食に立ち向かうことを極力避けたからだ。海に近いルートを選択した路線であっても、地形が許す限り内陸を通るように線路が敷かれているのは当然の選択だと言える。

いまも線路が敷かれている厚賀―節婦間を訪れると、地形の制約はあまりないように感じられ、できればもう少し内陸に線路が敷かれていればよかったのではないかと考えてしまう。そもそも、日高線の営業が休止となったのは高波の被害を受けたからだ。大正初期に日高拓殖鉄道として、いまの日高線の線路を敷設した人たちはなぜこのようなルートを選択したのかと疑問に思う。

だが、大正期に日高線を建設した関係者も現状を見たら驚くに違いない。「海岸が日高線の線路にまで迫っている」と。

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