こんなに?地図と「ズレてしまった」鉄道路線 7月「長崎トンネル」は一歩間違えれば大惨事

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ともあれ、今回は大事に至らなかったのが何よりであった。鉄道・運輸機構は今後、多方面から図面を取り寄せたうえで工事用の図面を作成するというので、二度とこのようなトラブルがないことを祈りたい。

さて、長崎トンネルのように、線路が実態とは異なっていて地図とは別の位置に存在していたケースもまま見られる。その理由は地図完成後に線路が移動してしまったからだ。事例をいくつか紹介しよう。

●JR東日本磐越西線・鹿瀬(かのせ)―津川間

磐越西線の線路は、福島県喜多方市の山都(やまと)駅から新潟県五泉市の馬下(まおろし)駅までの67.3kmにわたって阿賀川(福島県)、阿賀野川(新潟県)が切り開いた狭い谷地を進んでいる。基本的に線路の片側は川、もう片側が山の斜面という光景が1時間30分あまりも続く。

新潟県阿賀町を通る鹿瀬(かのせ)駅から次の津川駅までの間の3.4kmでは、標高371.9mの赤崎山の斜面すれすれに線路が敷かれた。一方、赤崎山の中腹から阿賀野川に向けての約1000mでは幅500mの範囲で地すべりが恒常的に起きており、線路も一部で地すべりの影響を受ける。

具体的には、線路は年間に多いときで2m、少ないときでも数十cmは阿賀野川に向かって動き、1913(大正2)年8月1日の開業から1980年初頭までの総移動量は50mに上ったという。

線路の保守作業はどのようにして行われていたかというと、移動が確認されるたびに山の斜面を切り崩し、線路を山側に移動させていた。地すべりが緩やかで、線路が川に向かって一気に押し出されることがなかったからだが、それにしても何とものんびりとした対策だ。

なお、1924(大正13)年3月11日にはこの区間の1駅終点の新津駅寄りとなる津川―白崎(しろさき。現在の三川)間の斜面で土砂崩壊が発生し、折から通過中の客第401列車が土砂に乗り上げて先頭の機関車、次位の郵便車、客車2両が脱線する事故が起きた。乗り上げた際の衝撃で機関車は約5.5m下の県道(現在の国道459号)に転落して職員1人が死亡、さらに職員5人、郵便係員3人の合わせて8人が負傷した。。

赤崎山の地すべりは1981(昭和56)年になって建設省(現・国土交通省)の所管となり、対策が施されるようになった。この結果、いまはこの区間の線路が移動することはない。

1日に何度も移動する橋梁

●JR九州長崎線の六角川橋梁と塩田川橋梁

長崎線の線路は肥前山口駅と肥前白石(ひぜんしろいし)駅との間で一級河川の六角川を渡り、長さ162.3mの六角川橋梁が架けられた。また、肥前白石駅から1駅長崎駅寄りの肥前竜王駅と肥前鹿島駅との間で、今度は二級河川の塩田川を渡っていて、こちらには長さ214.2mの塩田川橋梁が架けられている。

六角川橋梁は1930(昭和5)年に架設され、一部に上部が弧を描いた曲弦トラスと呼ばれる桁をもつ。一方で、塩田川橋梁は1986(昭和61)年に完成した比較的新しい橋梁で、三角形の鋼材を組み合わせたワーレントラスと呼ばれる桁が3連並ぶ。

両橋梁とも各地でよく見かける姿をしていて、特段珍しくは感じられない。しかし、国鉄やJR九州の現業部門では1日に何度も移動する、「息をする橋梁」として知られている。

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