外交官の事件に見るエリート階級の変化

変化する外交官の「顔」

が、これに対するインドの反応はロシアより激しかった。報道機関が憤りを表明したほか、国内では謝罪を要求するデモも行われた。米外交官たちの慣習的な特権も剥奪された。インドの法律では同性愛が犯罪なので、米外交官たちの同性配偶者たちを逮捕するとの脅しがあった。

こうした反応は行き過ぎに見えるかもしれない。が、外交官たちは一国の公式な代表であるから、彼らの象徴としての機能はとても重要だ。外交官たちは国旗のようなもので、彼らを侮辱すれば「国家」を侮辱したのと同じになる。そして国家の「顔」を保つことについては、ロシアとインドは大抵の国々よりも敏感である。ロシアはつねに西欧諸国から見下されているように感じてきたし、インドは依然として植民地支配の屈辱を引きずっているからだ。

ザ・タイムズ・オブ・インディア紙に投稿したライターは「インドが現在、海外で3流のバナナ共和国と見られているというのは悲しい事実だ」と、簡潔に表現している。この見方が正しいかどうかは重要ではない。首都ニューデリーのエリート層を中心にインド国民の多くがこう考えているのである。ニューヨーク市警の振る舞いは、インド国民の心の奥底にある恐れに触れた。

この二つの事件で、ロシアとインドの新しいエリート階級について興味深いことがわかった。外交官たちはつねに自国の顔となってきたが、外交官自身の顔が変化したことだ。かつて外交官は、実際には国民国家でなく、宮廷を代表していた。結果、たとえば欧州の外交官たちの大半は貴族だった。

駐在国での起訴から外交官を免責するという考えは、過去に起きた事件がもとになっている。この事件では、ロンドンでピョートル大帝の代表を務めていたロシアの貴族、アンドレイ・マトベーエフが逮捕され、カネを要求する執行官によって拘束されたうえ、暴力を振るわれた。ロシアは抗議し、英国は謝罪した。そして英議会は外交官が同様の待遇で苦しまないように新法を制定した。

ボロディン、コブラガデ両氏は貴族ではないし、今は時代が違う。ボロディン氏は、夜の外出を楽しんでいただけで、普段は節度のある人かもしれない。が、同氏の暴力的な行為は、ソ連崩壊以来、富と権力を大いに蓄積してきたロシアの新興階級に見られない行為ではない。

コブラガデ氏の事例はより興味深い。同氏は、以前なら床を掃除する以外にエリート階級に近づくことなどなかった、カースト制度の「不可触民」に生まれた。インドの独立以来、政府は不可触民の地位向上に尽力してきた。同氏は、この政策の恩恵を受けた一人だ。世界で興隆するこの国を代表することに誇りを持ち豊かさを増す新エリート階級に、同氏は属している。

コブラガデ氏が意図的に最低賃金を下回る給与を家政婦に支払っていたことが事実だとしたら、これは仲間入りした階級の習慣を同氏がいかに十分に身に付けたかを示している。米国がインドの自尊心を傷つけたことに対する多くの抗議の中で、貧しい階級に対する習慣的な搾取に言及したものは少なかった。ある国には、政治家と同様、国民にふさわしい外交官がいるようだ。

週刊東洋経済2014年2月1日号

(C)Project Syndicate

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