アリという昆虫の「最期」はあまりに突然訪れる

彼らの生活はつねに危険にあふれている

働きアリの彼女も、一目散に餌場を目指した。

その日は、いつもより日差しが強い。日なたは焼けるような暑さだった。ここを過ぎれば、後は餌場までは日蔭が続く。

昨日の餌場が見えてきた。もう少しだ。足取りも軽くなる。

そのとき、ふっと足を取られたような気がした。気のせいではない。そこにあるはずの地面がないのだ。

100メートル走を走るアスリート並みの速度での移動中のことである。突然、視界から餌場が見えなくなった。

どうやら、地面のくぼみに入ってしまったようだ。

急いで、斜面を登ろうとするが、やけに細かい砂で登りにくい。爪を地面に引っかけて登ろうとすると、足場にした砂も崩れ落ちていく。思うように登れないのだ。

「あり地獄だ!」

彼女が気づいたときは、すでに遅い。彼女はすり鉢状のアリジゴクの巣に足を踏み入れてしまっていたのである。

緻密な作業で「地獄」を作るアリジゴク

俗にアリジゴクと呼ばれる虫は、ウスバカゲロウという虫の幼虫である。成虫のウスバカゲロウは繊細でスマートな形をしているが、幼虫のアリジゴクは不気味に大きな牙を持ち、ウスバカゲロウからは連想できないほど、醜くグロテスクな格好をしている。そして、地面にすり鉢状の巣を作り、その奥に潜んで、巣に落ちてきたアリを牙で挟んで捕えるのである。アリにとっては、文字どおり「地獄」なのだ。

不意を突かれてアリジゴクの巣に落ちてしまった彼女は、必死によじ登ろうとするが、砂が崩れて脱出するのは容易ではない。

砂を山盛りにしたとき、砂が崩れず安定している際の斜面と水平面の成す最大角度を安息角(あんそくかく)という。実は、アリジゴクのすり鉢状の巣は、砂が崩れない安息角に保たれている。そのため、小さなアリが足を踏み入れただけで限界点を超え、砂が崩れ落ちるのである。

しかも、安息角は一定ではない。砂が湿ると崩れにくくなるので、砂が崩れるギリギリの角度は大きくなる。そこで、アリジゴクはそのときの湿度に合わせてこまめに巣の傾斜を調整しているのである。

すり鉢状の巣に落ちれば、一巻の終わりだ。アリは必死に足を動かす。はい上がってもはい上がっても足元の砂は崩れ落ちてくる。

ただ、アリは垂直な壁も登れるほど鋭い爪を持っているので、砂が崩れても崩れても、足を動かし続ければ、アリジゴクの巣から脱出することも可能だ。

次ページ働きアリの彼女は必死にもがき、足を動かす…
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