沖縄・オリオンビール「第2創業」に至った舞台裏 県民が育てるビール会社はなぜ売られたのか

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今年3月、オーシャンHDによるTOBが終了し、予定どおり嘉手苅会長が「ほんの少しだけ」(オリオン幹部)出資をしたことでMBOは成功した。かろうじて「自主独立」の形を守ったオリオンは5年後をメドにIPO(新規上場)を目指す。

カーライルや野村は5年後に向け、今回の買収価格を上回る価格で売却するためのイグジット戦略を描かなくてはならない。そのために招聘したのが早瀬新社長だが、オリオンには大きな難題がある。酒税減免措置とどう向き合うかだ。

47年間も続く酒税減免措置

1972年に沖縄が本土復帰をした際、市場環境の激変を緩和するための措置として敷かれたのが酒税軽減措置。沖縄県産の酒類に対して酒税を20%軽減する措置だ。本来であれば2~3年で終了すべき減免措置が47年間も続いていることに、県内からも疑問の声が絶えない。

2018年3月期のオリオンの純利益は23億円だが、このうち約20億円は減税効果とされている。つまりオリオンは、国の補助支援策に大きく依存した収益構造になっているのだ。

会見に臨む早瀬京鋳オリオンビール新社長(中央)(記者撮影)

減免措置から脱却し、正当な競争力の下でIPOできるよう汗を流すのか。それとも、旧経営陣がやってきたように、減免措置維持のための政界ロビー活動に汗を流すのか。早瀬氏は22日の会見で酒税減免措置について「勉強中」と明言を避けたが、いずれその具体的な対処策を示さなければならない時がくる。

創業者が「県民が育てるビール会社」になるよう志したオリオンビールは、皮肉にも、子や孫たちの「現金ニーズ」によって県外、国外に売却された。「オリオン経営陣が示す買収額が低いから、こうするより仕方がなかった」という創業家の理屈に、心から納得する県民は少ないだろう。

一方、新生オリオンは「創業家の影響がなくなり、カーライルの企業価値向上の手腕と野村の金融の知見、両方を使えることになった」(オリオン幹部)。しかしそれは、経済合理性がより厳しく求められることを意味する。そこに、沖縄における「身内の論理」が入り込む余地がないことだけは確かだろう。

野中 大樹 東洋経済 記者

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のなか だいき / Daiki Nonaka

熊本県生まれ。週刊誌記者を経て2018年に東洋経済新報社入社。週刊東洋経済編集部。

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