沖縄・オリオンビール「第2創業」に至った舞台裏 県民が育てるビール会社はなぜ売られたのか
オリオンビールのOBは「宗精が築き、県民が育ててきた会社を勝手に売り払うなんて、経営陣はいったい何を考えているんだ」と憤る。別のOGは「(売却は)新聞記事で初めて知った。何が起きていたのか、真相を知りたいのに会社からは何も知らされない」と嘆いた。
オリオン経営陣への不満の声が飛び交う中に、1人、居心地の悪そうな顔をした男がいた。身の置き所がなく、そそくさとその場を離れてしまったが、創業家一族であるこの男こそ、オリオン売却を誘導した張本人だ。東洋経済の取材には「こうするより仕方がなかった……」と釈明する。何があったというのか――。
創業家と経営陣の対立
オリオンビール本社(沖縄県浦添市)の5階に、幸商事という会社がある。オリオンの本社ビルなどを所有する資産管理会社で、経営するのは具志堅宗精の子たち。オリオン株の約8.5%を保有し、同社に対する影響力を保持してきた。
オリオンの筆頭株主は2002年に業務提携を結んだアサヒビール(10%保有)だが、歴代の経営陣は幸商事、すなわち創業家との関係に神経を磨り減らしてきた。
「この人(自分に近い人)を社員にしてやってくれ」「この保険を買いなさい」といった“天の声”が降りてくれば、経営陣は無下にはできない。「とくに苦しかったのが、創業家の人間をオリオン役員に迎え入れなさいというプレッシャーだった」と役員経験者の1人は述懐する。
一方、創業家の側にも「株主である自分たちの存在が軽んじられている」という不満があった。配当は長い間1株当たり50円に据え置かれ、その後70円、2016年度には100円へと増額されたものの、3%前後の配当性向に「非上場企業とはいえ、低すぎる」という不満があった。
創業家と経営陣のにらみあいは、県民の目の届かぬところで深刻度を深めていた。約10年前には、幸商事の財務資料や実印が入った金庫が何者かに持ち去られるという騒動まで起きている。警察は「身内同士のケンカ」と判断して事件化しなかったが、事態が泥沼化する中、創業家から「もう、オリオン株と幸商事を売却したい」という声が上がりはじめる。
先の創業家の男は「宗精の子たちの平均年齢が80歳を超えている。1人亡くなるだけでも後始末が大変だ」と遺産相続問題を理由に挙げるが、理由はそれだけではない。「創業家の中には事業に失敗して多額の負債を抱えた人間もいた」(同)。
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