沖縄・オリオンビール「第2創業」に至った舞台裏

県民が育てるビール会社はなぜ売られたのか

しかし、オリオン株と幸商事売却の協議は順調にはいかなかった。5年前の当初、オリオン経営陣が提示した幸商事の買収額は約25億円だったが、これに創業家は「安すぎる」と受け入れを拒んだのだ。

オリオン本社ビルなどの不動産のほか、同社株8.5%の売却額は県内企業の株価などを参考にして算出されたが、創業家は納得しなかった。実際、今回の野村・カーライルによる株式公開買い付け(TOB)価格は、1株当たり7万9200円。幸商事の持ち株数を単純に掛け合わせると、それだけでも48億円を超える。オリオン経営陣は、はなから創業家との交渉を行うつもりはなかったのかもしれない。

経営陣を見限った創業家は、沖縄県内の有力ゼネコンや外資ファンドなどいくつかの門をたたき、2016年、カーライルにたどりついた。「オリオンビール株を買い取ってもらえないか」。オリオンのブランド価値、成長可能性に着目したカーライルは興味を示した。

野村に駆け込んだ経営陣

翌2017年、創業家はカーライルの担当者とともにオリオン株主のもとを訪れ始める。カーライル単独でオリオンのTOBを実施しようと画策したのだ。カーライルをバックにつけた創業家による「敵対的買収」準備だった。創業家の動きを察知したオリオン経営陣は慌て2018年2月、ホワイトナイト(買収防衛策)の要請のため野村證券那覇支店に駆け込んだ。

互いの動きを探り合っていた2018年の10月下旬、創業家側に一本の連絡が入る。銀行出身のオリオン取締役、亀田浩氏による面会の要請だった。11月3日、東京・中央区の野村證券本社で実現した面会で、亀田氏は創業家に「(野村の力を借りて)幸商事を買い取りたい」と告げる。それであれば、創業家にとっても株の現金化という目的は達せられる。

沖縄で愛されるオリオンビール(編集部撮影)

カーライルと野村による買収合戦は、こうして両者の「共同TOB」にかたちを変えることになった。

そのスキームはこうだ。野村の投資ファンド「野村キャピタル・パートナーズ」(NCAP)が51%、カーライルが49%出資するSPC(特別目的会社)であるオーシャン・ホールディングスがオリオンのTOBを実施する。オーシャンHDは、あわせて幸商事も買収する。創業家は今回のTOBですべての保有株式を売却する。

その後、アサヒビールがオーシャンHDに約10%出資、筆頭株主の地位を維持する。さらに、オリオンの嘉手苅義男会長がオーシャンHDに出資し、形式上「MBO(マネジメントバイアウト=経営者による買収)」となるようにした。つまり、会社は買収されるが、対外的には「オリオンは自主独立を維持した」と言えるようにする。創業家・経営陣・そしてファンド。これら3者による妥協の産物が、今回のスキームといっていいだろう。

次ページ5年後メドにIPOを目指すが…
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