彼はタバコに火をつけると、
「あ~あ、バブル景気また来ないかな~」
と笑いながら言い放った。
今、バブル景気がやってきても、ホームレス生活をしている彼が恩恵を被ることはないと思う。ただやはり彼の記憶の中では、バブル時代の思い出はキラキラと輝かしいのだろう。
このように家族が差し入れに来ると語る、ホームレスはたまにいた。
2009年頃、上野公園で生活する70代の男性は
「家がある長野県から娘がしょっちゅう会いに来るよ。『もうそろそろ戻っておいでよ』って言われるんだけどね。俺はここでの生活が気に入っているからね。帰りたくないんだよ」
と語っていた。最初は「ウソか妄想じゃないかな?」と思ったが、どうやら本当の話らしかった。
正直、なぜ帰らないのかさっぱりわからなかったが、そのおじいさんはその後もしばらく上野公園で暮らしていた。
訳あって夫婦でホームレス生活をする人も
野宿生活をする人の多くは、一人暮らしをしているが、中には夫婦で生活する人もいる。ただ、やはり圧倒的に数は少ないし、一旦ホームレス生活に至ってもすぐに家を借りてアパート暮らしに戻る人が多い。
以前多摩川の河川敷に建てたテントで、夫婦で暮らしている人がいた。
奥さんはまだ30代前半と若かった。いろいろあって住む家を失ってしまったのはわかるが、普通は生活保護を受給しアパートを見つけて生活を続ける場合が多い。なぜ、そうしなかったのか伺うと、
「犬がいるからね。生活保護で手に入れる部屋は犬を飼える部屋がほとんどないのね。保健所で殺処分しろって言う人もいたけど、家族だからそんなことはできなくて……」
と語った。
確かに彼女は白い犬を連れていた。
動物を手放したくなくてホームレス生活を始める人には何人か会った。
他に手段はなかったのか?とは思うが、ただとても優しい選択だと思う。
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