「タレントへの圧力」許す日本芸能界の構造問題 ジャニーズ、吉本騒動を防ぐためできること

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組合はまた、これらの労働条件が満たされるよう、徹底的な姿勢を持って挑む。撮影現場で条件と違うことが起こったと報告があれば、即座に担当者やお抱えの弁護士が連絡してくるのだ。その目の光らせ方は相当なようで、ある匿名の映画プロデューサーは「多くのプロデューサーにとって目の上のたんこぶ」と漏らすが、出演する側にとっては、組合がそこまで自分の後ろについていてくれるのはありがたいことだろう。

今年7月には、「#MeToo」を受けて、セックスシーンやヌードシーンの撮影についてのガイドラインを作成し始めたとも発表した。

SAGはまた、メンバーのために、割安な健康保険や老後のための年金制度も用意している。もちろん、それらの恩恵はタダではないし、スタッフや弁護士を雇うのにも、お金がかかる。

その財源は、メンバーが年収の1%を年会費として支払うことで賄われている。年収が1000万ドルあるスターなら10万ドル、つまり1000万円強だ。最低の年会費は400ドルで、1%がそれを下回る場合は400ドルを払う。ほかに、入会金もある。2007年に入会したシャーマの場合は、3000ドルだった。

芸能人たちにもできることがある

もちろん、SAGは楽園でもなければ、完全無欠でもない。前出の匿名プロデューサーは「SAGはまるで政府のように権力を振りかざす巨大な団体になってしまった」と言うし、シャーマも、「ほかのどんな団体と同様に、悪い部分はある」と認める。それでも、彼は「これのおかげで人生はいい方に変わった」と、組合を絶賛。日本でも同じような組織を作るための第一歩は、トップクラスのスターが立ち上げることだと、彼は言う。

「誰だって、一人でやるのは怖いだろう。それに、少人数すぎると、干されて終わりになるかもしれない。この人たちがいなかったら映画やテレビが成り立たない、というレベルの人たちが、力を合わせて始めなければいけないんだ」(シャーマ)

今や、13万人の現役メンバーをもつSAGも、最初は数人の大スターがミーティングを持つことで始まっている。影響力のあるスターたちがそのような姿勢を見せるだけでも、脅威が生まれ、力関係に変化が生まれるのではないか。そこからまた何かほかの可能性が見えてくるかもしれない。令和と元号も変わった今こそ、日本の芸能界も新しい時代を迎えるべき時のように思う。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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