「早期教育でバイリンガル」はこんなにも難しい 赤ちゃんの言語習得にみる子どもの母語学習

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つまり、子どもが母語を身に付けていく道のりとは、かなり険しいものなのです。

生まれてから最初の数カ月は、それらについて何もわからないまま過ぎていくかもしれません。やっと一言「話す」頃には生まれてから1年経っており、単語をつなげて文らしきものが話せるようになるまでにはさらに約1年かかります。

新しい言語を“使える”までには時間がかかる

一方で、子ども(赤ちゃん)はいつも楽しそうに見えるかもしれません。でもそれは、子どもの生きている世界がまだ、大人ほど複雑でなく、忙しくもないからなのかもしれません。

子どものやりたいことは、あれが欲しい、あそこに行きたい、一人にしないで、などとシンプルです。周囲の人も、子どもがどうしたいのかを一生懸命に読み取ろうとし、世話をしてくれます。「小さな子だし、できないことがあって当然」と思っているし、失敗しても温かく受け止めてくれます。

それに引き換え、大人が真剣に新しい言語の学習に取り組むときには、大抵その言語を使い、やらなければならないことが目前に迫っています。

その"やらなければならないこと"も、自分の意見を正確に伝える、相手がイメージできていないことをわからせる、うまく交渉するなど、赤ちゃんのときに直面する問題に比べ、はるかに複雑です。それでいて、ほとんどの場合、相手も真剣勝負で余裕がないので、こちらの言語がマシになるまで待ってもらうことも難しいのです。

その状況の違いを考えれば、大人はかなり健闘しているといえます。実際、新しい言語が"使える"レベルになるまでの期間は、子どもより大人の方が短いという研究結果もあります。*1

ただしそれは、大人自らその言語の必要性を十分に理解し、一生懸命に学習に取り組んだ場合です。

大人はすでに母語を習得しているので、それを使って、言語の仕組みなどについても説明してもらうことができます。結果として、素早い外国語学習が可能となります。自分でゼロから探さなければならない赤ちゃんに比べたら、なんとラクで効率的な世界でしょう。

そしてもう1つ、大人はすでにいろいろなことを経験し、知っていて理解しています。単語の意味も、言語が変われば厳密にピッタリ同じ、とまではいかないかもしれませんが、おおよそ母語ではこういう意味、などと関連づけられます。それで、にわか仕込みでもなんとか使えるようになるのです。

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