「早期教育でバイリンガル」はこんなにも難しい 赤ちゃんの言語習得にみる子どもの母語学習
それでいて大人は、自らが母語獲得に要した苦労のほとんどを覚えていません。
「母語はいつのまにか完璧に身に付いていた」と思い、「子どもの頃に母語のほかにも言語に触れられればよかった、そうすれば今ごろその言語もペラペラだったのに」と考えがちです。
その結果、「自分の子どもにはできるだけ幼いうちに新しい言語に取り組ませなければ」と焦る人もいます。あるいは、家族全員で海外に移り住むことになれば、「これでうちの子どもを現地の学校に通わせれば、ラクラクとバイリンガルだ」と喜ぶかもしれません。
しかし、そんな大人の期待に反し、新しい言語が使えるようになるまでには、幼いほど長い時間がかかります。*2
そもそも母語のときでさえ、自分で発見を重ね、身近な人と言語で意思疎通できるようになるまで3年くらいかかりました。新しい言語についても、やはり少なくとも同じくらいかかるはずです。
それと忘れがちですが、周囲で話されている言語がわからない、という状況に放り込まれれば、子どもも強いストレスを感じます。周囲が何を言っているのかわからないということにも驚くでしょうが、いったん使えるようになり始めていた「私の言語」が、ここでは役に立たないという発見もさぞショッキングなものでしょう。
気持ちを切り替えて、新しい言語の習得に取り組むにしても、言語を使って解決しなければならない問題は、赤ちゃん時代よりはるかに複雑になっています。そのような状況で"母語のように"習得しようとすれば、ラクでないことはもう明らかです。
母語と新しい言語との関係
それでも、子どもがめげずに困難な状況に立ち向かっていくのなら、時間はかかっても、その新しい言語を話せるようになっていくでしょう。でもそんなとき、気をつけなければならないのは、今度は、母語の方です。
新しい言語に触れている、ということは、つまりその間、母語には触れていないということです。
母語に触れる時間が短くなり、母語は家庭内でのおしゃべりだけ、さらにどういう話題を扱うかも限定されれば、母語の方の語彙も表現も伸びていきません。大人も同じですが、使わなければ「表現や言葉がすぐに出てこない」ということにもなります。
その結果、とくに年齢の低い子どもでは、新しい言語が、(それまで使っていたもともとの母語に置き換わって)一番使いやすい言語になっていったりします。対して、もう少し年長の子どもでは、母語の力も保ったまま、現地の言語を身に付けていくことが多いようです。
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