退職せざるをえなかった不妊治療の過酷な現実 「職場の無理解に苦しんだ」女性たちの本音

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新しいクリニックとの相性はよく、クリニックを変えてから3度妊娠している。だが、結果はすべて流産。「赤ちゃんの心拍まで確認して流産したこともある。前日にお腹の中にいたはずなのに、翌日大量出血をして、いなくなる。お腹の中のエコーを見たり、妊娠による体の変化を経験したりしているから、余計にその喪失感は大きかった」。

流産回数が多いので、今まで避けてきた遺伝子検査も受けた。結果は相互転座という遺伝子異常。遺伝子異常の卵は、子宮に戻しても卵が育たず流産してしまう。

使ったお金は怖くて計算できない

「流産回数が増えるだけなので、着床前診断を受けてから戻すことにしました。着床前診断は10万円。採卵と合わせて1回につき数十万円かけても、正常卵が採れず全滅して、毎回振り出しに戻される。

今までかかった治療費は怖くて計算していないんです。でも毎年医療費控除の季節になると、領収書が150万円を超えていて……。この使い道で合っているのか、ふと疑問になる。遺伝子異常がわかってからのこの1年半は、結局1度も卵を戻せていません」

夫は治療については理解があるし、協力的だという山口さん。

「日本全国に転勤の可能性がある。だから、名古屋で通院しているときも、東京に来てからも、会社には異動先はなるべく大きい都市にしてほしいと希望を出していた。そうしないと不妊治療の病院はなかなかないので。できたら次の転勤も関東圏がいい」

子どもの病気や親の介護、夫の入院、自分の通院など、皆それぞれに何かを抱えながら、仕事とプライベートを両立させている。不妊治療もその1つであり、今どき特別なことではない。

しかし、ほかの理由と決定的に違うのは、不妊治療が目に見えないものへのアプローチだということ。子どもの発熱と同じくらい、「この日でなければダメ」という日があるにもかかわらず、それは目に見える存在がいないため理解されにくい。

「理解してもらうことは不可能だし、気を遣わせるだけなので、基本的に友人にも話さない」と今回取材した2人とも話していたが、いざ声を上げたときに、それに呼応できる環境作りのためにも、不妊治療に対する認知度向上が必要だろう。

本連載「不妊治療のリアル」では不妊治療の体験について、お話しいただける方を募集しております。取材に伺い、詳しくお聞きします。こちらのフォームにご記入ください。
吉田 理栄子 ライター/エディター

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よしだ りえこ / Rieko Yoshida

1975年生まれ。徳島県出身。早稲田大学第一文学部卒業後、旅行系出版社などを経て、情報誌編集長就任。産後半年で復職するも、ワークライフバランスに悩み、1年半の試行錯誤の末、2015年秋からフリーランスに転身。一般社団法人美人化計画理事。女性の健康、生き方、働き方などを中心に執筆中。

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