退職せざるをえなかった不妊治療の過酷な現実 「職場の無理解に苦しんだ」女性たちの本音

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「1年半治療をお休みしました。でも35歳を目前に、自分の中で諦めきれない気持ちがあって、区切りをつけるためにもステップアップしようと通院を再開しました」

そんな矢先、職場で人手不足のため「子どものいない外来担当者は、これから救急外来にも入ってほしい」と言われた。外来担当は子どもを産んで時短復帰する人が多いため、子どもがいないのは戸山さんを含めて数人のみ。

「育休から時短復帰した人は夜勤ができないから、必然的に外来担当になるんです。週末出勤もあるのですが、それも子どもがいる人は免除されているので、いつも子どもがいない数人で回していました。有休もまったく使えないほど忙しいのに、週末勤務に加え、さらに子どものいない数人だけが救急の夜勤も担うのは納得いかなくて……」

友達と飲みに行って徹夜というのではなく、救急で当直をすると神経の使い方がまったく違うため、1回夜勤に入ると、そのあと2週間は体のリズムが元に戻らない。それは今までの経験上、身をもってわかっていた。

「子育ての大変さがわかっていない!」

もし救急で人手が足りないなら、外来全員で回せば1人当たりが入る回数は抑えられる。そこで「子どもがいる人だけ夜勤から外すのはおかしい」と直談判にいき、不妊治療をしていることをカミングアウトした。

しかし、当時の女性上司の回答はあぜんとするものだった。

「『あなたは子育てがどれほど大変か、全然わかっていない。不妊治療のような個別の理由は、夜勤を免除する理由にあたらない』と言われてしまって」

人事部や上司たちと面談を重ねて、職場が導き出した答えは、「ここにいても、あなたの雇用条件には合わないですね」と暗に退職を促すものだった。

「もともととても仲のよい職場で楽しかったので、まさか自分が辞めるなんて考えてもいませんでした。しかも、共働きを前提に家も買ってしまったばかりだったので想定外。でも、もう辞めるしか道は残っていなかった」

不妊治療を再開したとはいえ、ホルモン値などの状態がよくなく、まだ人工授精にこぎつけていないが、この先は人工授精を3〜5回繰り返し、体外受精までステップアップを考えている。

「家も買ってしまったし、不妊治療をするにも、その後子どもが生まれて子育てをするにしてもお金がかかる。看護師は一生ものの資格とはいえ、医療の進化により認識や指導方法が変わる。技術職でもあるため、感覚が鈍るのは避けたいので、ブランクは作りたくない」

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