退職せざるをえなかった不妊治療の過酷な現実 「職場の無理解に苦しんだ」女性たちの本音

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一方、不妊治療は順調とはいえなかった。卵胞・卵子を発育させ排卵を促す排卵誘発剤を使うと20個くらい卵はできるが、卵胞の中に卵子が入っていない空胞が多く、3回採卵を行っても1つも卵をお腹に戻すことはできなかった。

4回目の採卵でやっと移植にこぎつけ着床。しかし、妊娠の喜びに浸ったのも束の間、子宮外妊娠で緊急入院することになった。子宮外妊娠は、本来子宮で育つはずの受精卵が、卵管など子宮以外の場所に着床するもの。手術をしなければ、卵管の破裂による大量出血で生命の危険があったため、中絶しか選択肢はなかった。

さすがに職場に事情を話さなければならず、入院は10日間に及んだ。

「ずっと頑張ってきて、やっと妊娠までたどり着いたのに……。初めての妊娠と流産のショックで、さすがにメンタルがボロボロになってしまって。そのあと2週間出勤できない状態が続きました」という山口さん。

ネイルサロンは1カ月前に予約が入り、1対1の接客のため代わりはいない。しかも、ちょうど新店舗のオープンの時期と重なったため、職場に復帰した後の風当たりは予想以上に冷たかった。それまで週4〜5日だったシフトも、週2回に減らされた。

夫の転勤で東京へ引っ越すことに

しかし不妊治療はお金がかかるので、仕事をしないわけにはいかない。なるべくシフトに入りたいと店長に伝えるも、「上に伝えておく」「忙しくてまだ言えていない」の繰り返し。らちが明かないので、それならばと自分で本部に直談判したら「いつ妊娠するかわからないから、シフトを増やすわけにはいかない」と言われた。

流産の後はしばらく治療を休んだが、シフトは増やしてもらえないまま。そうこうしているうちに夫の転勤が決まり、生まれ育った名古屋を離れ、東京に引っ越すことになった。

ネイリストの仕事も、またパートで始め、名古屋で通っていた病院の系列院でまた不妊治療も再開した。名古屋で凍結した卵子を使い、再度お腹に戻したが結果は出ず。その後も2回採卵するが、お腹に戻すには至らなかった。

すでに国の助成金の上限も超えたが、まだ若く、子宮外とはいえ一度は妊娠したので諦めきれなかった。「ここではもう結果が出ない」と、超有名クリニックへの転院を決意。前の職場のことがトラウマになっていたこともあり、パートを辞め、自宅サロンを開業することに決めた。

「不妊治療が長くなると、自分で生理から逆算してだいたいのことはわかる。1対1の接客なので、どのみち誰もカバーしてくれないのであれば、独立したほうが楽。しかもパートよりも今のほうが収入も増えました。

独立したら、自分を指名してくれる人ばかりなので、常連さんには治療の話もできるようになり、今がいちばん治療しやすい環境かも。気持ちも楽になりました」

朝イチで病院に行っても、昼以降の予約なら取れる。今までの経験からベストなリズムを見つけることができた。

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