広島、豪雨被災地を支えた「臨時バス」の舞台裏 「災害時BRT」の経験、今後にどう生かすか

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次に進めたのは、災害時BRTや代行バスなどが経路検索サービスに表示されるようになるための取り組みだ。

神田教授は7月末に開かれた「日本モビリティ・マネジメント会議(JCOMM)」で、東京大学生産技術研究所の伊藤昌毅特任講師(当時は助教)に協力を要請した。伊藤特任講師は交通とITをつなげるさまざまな活動を行っており、標準的なバス情報フォーマット(GTFS-JP)策定・推進の中心的人物だ。経路検索サービス各社にも人脈を持っている。

伊藤特任講師はさっそく広島入りして現地の情報収集を行った。「最初はグーグルマップに代行バスの情報を反映できないかと考えていた」というが、広島県やバス会社などと話を進めると、そのデータ作成は非常に難しいことがわかった。経路検索サービス事業者も、代行バスを検索に反映するにはデータの作成などで数日から数週間が必要で、日々運行状況が変わる代行バスの状況を反映するのは難しいということになった。

位置情報システムまで整備

そこで、まずはバラバラになっている災害時BRT・JR呉線代行バス・船舶の情報をまとめて見られるWebページの作成を進めることにし、さらにJR代行バスの走行位置情報を公開することにした。

代行バスに積み込んだ簡易バスロケーションシステム用のGPS端末セット(写真:神田佑亮)

バスの位置情報取得には、島根県のコンサルタント会社が除雪機用に保有していたGPS端末を活用。走行位置情報を表示するロケーションシステムは、経路検索サービス「駅すぱあと」を開発するヴァル研究所のシステム「SkyBrain(スカイブレイン)」を利用した。この走行位置情報表示システムは着手から2週間で稼働し、これによって8月の炎天下でいつ来るとも知れないバスを長時間待ち続ける状況を解消できた。

これらのシステム構築にかかる費用は協力事業者の持ち出しだったという。情報提供に向けてこれだけ伊藤特任講師やヴァル研究所が動いたのは、彼らがデータのオープン化に取り組む中で、2016年4月の熊本地震のときに何もできなかったという思いがあったためだ。ヴァル研究所の諸星賢治氏は「熊本地震のときには何もできなかったので、次があれば何かしたいと考えていた」という。

こうして災害時BRTの運行や代替バスの情報システム整備が進む中、鉄道や道路の復旧も急ピッチで進展。JR呉線の広島―呉間は9月9日、広島呉道路は9月27日に再開。これをもって災害時BRTをはじめとする取り組みはひとつの区切りを迎えた。災害時BRTおよび情報提供の取り組みは、日本モビリティ・マネジメント会議のプロジェクト賞を受賞した。

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