広島、豪雨被災地を支えた「臨時バス」の舞台裏 「災害時BRT」の経験、今後にどう生かすか

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災害時の交通機関の運行情報についても、平常時からの準備があればとの思いがある。「例えば運輸事業者と経路検索サービスの契約の中に災害時協定を入れておいて、災害時に情報をすぐにやりとりできるように先に決めておく。そうすればもっとスムーズな情報提供がされていたかもしれない。経路検索サービスはインフラなので、こうした仕組みがあったほうがいい」。究極の姿は、スマートフォンで代替交通や臨時輸送もすべて検索できるようになることだ。

そして、今後検討が求められるのは災害時の交通マネジメントに対する財源だ。「激甚災害に指定された際、道路は崩れた所を元に戻すのにかかる費用の9割を国が持つという制度がある。しかし、公共交通にはそういった制度はない」。災害時BRTは1カ月で少なくとも数十億円近くの運用効果があったとの試算があるものの、ルートに配置する警備員の人件費数百万円の調整がつかずに運行時間を狭めたケースがあるという。

「1週間で数百万円の費用が問題となってできないのはもったいない。国が全部もてとは言わないが、何か災害が起こった際に行われた交通マネジメントに対する財源をきちんと持っておくべきだ」と神田教授は指摘する。

「公共交通のBCPが重要」

近年、BCP(事業継続計画)という言葉をよく耳にするようになった。企業が自然災害や火災、テロ攻撃といった緊急事態に遭遇した際に事業資産の損害を最小限にとどめつつ事業の継続・早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続の方法、手段などを決めておくことだ。

天応地区の被災状況(写真:神田佑亮)

神田教授は「公共交通のBCPが重要だ」という。災害時BRTの取り組みを振り返ると、日頃から事業者や行政の垣根を越えてどれだけ万全に対策を作り込んでおくかが重要となるのは間違いない。

災害が多い国日本。2017年は九州北部豪雨、2018年は西日本豪雨、そして今年は鹿児島県を中心とする豪雨と、近年は7月初旬に毎年のように豪雨災害が起きている。また、6月には新潟県で最大震度6強の地震も発生した。これからの時期は台風シーズンでもなる。そうした日本の状況にあって、「災害時BRT」が伝える教訓は大きい。

鳴海 侑 まち探訪家

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なるみ ゆう / Yu Narumi

1990年、神奈川県生まれ。大学卒業後は交通事業者やコンサルタントの勤務等を経て現職。「特徴のないまちはない」をモットーに、全国各地の「まち」を巡る。これまで全国650以上の市町村を訪問済み。「まち」をキーワードに、ライティングをはじめとしたさまざまな活動を行っている。最新の活動についてはホームページ(https://www.naru.me/)やX(旧・Twitter、https://twitter.com/mistp0uffer)で配信中。

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