避難指示が出ても逃げ遅れてしまう人の心理 豪雨災害から身を守るために必要な4指針
ところが、詳しく取材をしてみると、高齢者の避難は迅速に行ったものの、その後岸本さんを含めて20人以上の職員は逃げ遅れて、浸水によって孤立。屋上まで水に浸からなかったために犠牲者を出すことはなかったが、もしハザードマップが示す「最大浸水深5メートル以上」まで水がきたら、建物全体が水没し、逃げ場を完全に失ってしまった可能性もあった。
当時を振り返り、岸本さんは「高齢者を避難させた後、椅子を机の上に上げたりしているとき、なぜ私は『そんなことは放っておいて、すぐに逃げろ』と言えなかったのか。根底には、晴れの国・岡山で大きな水害が起こるはずがないという根拠のない思い込みがあったんだと思います」と話す。
真備町川辺地区で被災した槙原聡美さんは、「2階で寝れば大丈夫」と言う夫を説得して、家族4人で自治体の指定避難所へと向かった。
しかし、混雑のために避難所に入れず、その後しばらく、すでに避難勧告が発令され、いつ災害が起こってもおかしくない地区内を車でさまよったり、自宅へ戻ったりしている。
車での移動中、川が氾濫して道路が冠水している「異常な光景」も目の当たりにしている。それでも「少し移動して何も問題がないと、『あそこの場所だけが特別だったんだ』と思ってしまう。自分が危険なところにいる実感はありませんでした」と振り返ってくれた。
スムーズな避難を妨げる「心理的要因」
岸本さんも槙原さんも、災害を予見して何らかの行動を起こしており、危機感がまったくなかったわけではないだろう。しかし、岸本さんは自分たちが逃げるタイミングを失して建物の屋上に孤立し、翌日自衛隊に救助された。槙原さんは危険を感じて避難行動はとっているものの、夜中のうちに何度か浸水するかもしれない自宅へと戻っている。
スムーズな避難ができない要因はいくつかある。その1つが、「正常性バイアス」や「同調性バイアス」といった心理的な要因だ。
正常性バイアスとは、簡単に言えば「ある範囲までの異常は『異常』と認識せずに、正常なものとして考えてしまう心理」を指す。槙原さんが、道路の冠水に遭遇しても「危ない」という実感が持てず、危険地帯である自宅に戻ったりしているのは、まさに正常性バイアスが働いているからだろう。
一方、同調性バイアスは、まわりの人に合わせようとする心理だ。西日本豪雨の後に広島市が実施したアンケート調査でも、「避難しなかった理由」として「近所の人が誰も避難していなかったから」という回答が高い割合を示していた。
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