日本の「法医学者」を取り巻く何とも厳しい現実 フジ月9「監察医 朝顔」で上野樹里さん演じる
避難所の体育館を卓球台で区切っただけの遺体安置所に、次々と運び込まれてくる遺体と、遺族の慟哭が響く中、医師たちもまた涙を流しながら検案作業をしたという。
「その場のベストは尽くしたが、プロフェッショナルな活動はできなかった。訓練も経験も足りず、災害時のシステムもできておらず、歯がゆい思いばかりが残った」と斉藤准教授は当時を振り返る。
2015年10月、実際に遺体安置所で身元確認作業を行った女性歯科医9名による「JUMP(Japanese Unidentified and Missing Persons Response Team:日本身元不明・行方不明者対策チーム)」を結成した。さまざまな状況に置かれた遺体や、多数遺体に対応して身元確認作業が行えるよう、海外の身元確認システムの調査やあらゆる視点に立った災害訓練などを行っている。
「死因究明等推進基本法」の実現は?
今年6月、死因究明体制の充実に向け、国と地方公共団体の責務として専門的な人材の確保などを定めた「死因究明等推進基本法」が成立し、2020年4月から施行されることが決まった。
国と地方公共団体に対し、死因究明に関する医師・歯科医師への教育・研修の充実や、科学調査の活用を進めるための連携協力体制の構築、身元確認に関わるデータベースの整備などが盛り込まれた。これらは、被災地に赴いた医師や関係者たちにとって必要なものだというが、実現するための導線は、今後の課題として残っている。
2011年3月11日に起きた東日本大震災から8年。今年3月7日、警視庁が3月1日現在の被害状況を発表した。
死亡者は12都道府県で1万5897人、行方不明者は6県で2533人。死亡者は、この1年で2人増え、行方不明者は6人減った。
この1年間で4人の遺体の身元が確認されたが、遺体が発見されたものの今も身元がわからないという方は60人にものぼる。
岩瀬教授と斉藤准教授に、法医学者の仕事内容や災害時の活動、今後の課題などをうかがった。(以下、2人へのインタビュー)
──法医学教室では、普段はどんな作業をされているのですか?
斉藤久子准教授(以下、斉藤准教授):千葉大学大学院医学研究院法医学教育研究センターは、人材育成や研究を目的として設立されたのですが、人数が多いので、各専門分野のスタッフがいます。解剖や組織検査を実施したうえで、総合的な医学診断を下す法病理学、薬毒物を分析する法中毒学、DNAを用いた個人識別や遺伝子検査などを行う法遺伝子学、私のように歯科医で法歯科学などです。
解剖のあとは、いろいろな専門分野のスタッフたちがチームとして必要な検査をします。たくさんの項目を細かく調べていくので、鑑定書ができるまでにはとても時間がかかります。鑑定書を提出し、大きな事件や要請があれば出廷もします。
ご遺体だけではなく、児童相談所から依頼された場合には、虐待を受けた子どもたちの傷の写真を撮ったり、DVを受けた人の傷などの写真も撮って、専門家としての意見書を提出しています。法医学では、エビデンス(証拠)がとても重要になります。
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