日本の「法医学者」を取り巻く何とも厳しい現実 フジ月9「監察医 朝顔」で上野樹里さん演じる
斉藤准教授:私は、岩瀬教授から「絶対に身元確認が必要だから、歯科所見を取って」と言われて、被災地へ連れて行ってもらいました。歯は、人間の体の中でもっとも硬い組織で、高温にも耐えられ、ほかの組織に比べて死後も長く残ります。また、歯に治療がしてあれば、その治療痕の情報と、カルテやレントゲンなど生前の歯科情報を照らし合わせることで、個人識別ができるのです。
歯科医師は、ご遺体のデンタルチャートを作るのが役目。デンタルチャートとは、歯科所見を記載する書式のことです。
治療痕の形態などを図示し、治療痕の用語や特徴を記載していきます。
ところが、日本ではデンタルチャートの書式も用語も記載方法も、歯科医師会や出身大学などで統一されていませんでした。
日航機墜落事故と阪神・淡路大震災は単一県だったので、各地域の歯科医師会で対応できましたが、東日本大震災は複数県だったので、混乱が起きました。私たちは、遺体安置所その場でわかりやすい記号を決めたりして対応しました。しかし、生前のカルテは津波で流されてしまっています。日航機墜落事故のときは、治療痕が複雑すぎるから簡単な記述方式にしたほうがいいという意見が出ました。
阪神・淡路大震災では、カルテが焼失してしまったりして、生前の歯科情報をクラウド化すべきだと兵庫県歯科医師会が提言しています。しかし、東日本大震災も現在もまったく反省点が生かされていません。次に災害が起きても、次世代の歯科医師たちが先輩歯科医師や私たちと同じ経験をしないといけない。それは嫌だと思い、「JUMP」を立ち上げて活動しているのです。
日本の法医学の仕組みから変えないといけない
──避難所はどんな様子でしたか?
斉藤准教授:前日までは普通に生活していた方が、目の前で亡くなっているわけです。身元もわからず、泥まみれで。中には、子どももいて、その子のお母さんらしき人もいて、腕がもげた人や顔がない人もいる。そういう光景を見て、システムを変えないとダメだと痛感しました。
岩瀬教授:あの独特の雰囲気は、言葉にできないし、決して慣れなかったですね。現場では、涙が出てしかたがなかったです。ただ、もし検案を怠れば、「殺し合い」が始まります。警察とわれわれが遺体を全部見て、殺されていませんってチェックしているから殺人が起きないんです。
あのチェックを止めた瞬間に、人を殺して埋め始める。それくらいせきを切ったように無法化していく状況だったので、そこは生き残った人の役に立てたと思います。
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