「一つの中国」は歴代為政者が夢見た幻想共同体 「香港暴動」は長い中国の歴史を象徴している

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香港で起きたデモは、今の中国社会の複雑さを象徴し、多元社会の中国の歴史を反映しているとも捉えられます(写真:共同通信)  
香港暴動、民族問題に象徴される中国の苦悩は、本来、多元社会であるにもかかわらず「一つの中国」を国是に掲げているからにほかならない。しかしながら、歴史を背負う中国の為政者にとって、「一つの中国」はつねに追い求めなくてはならない夢想の共同体なのだ。
近著『世界史とつなげて学ぶ中国全史』を著した東洋史家の岡本隆司氏が、中国社会の本質を解き明かすとともに、現代中国が抱える矛盾や苦悩について、歴史的視点からその真因を明らかにする。

分水嶺は14世紀

今日の中国を端的に表現するなら、「一つの中国」「中華民族」という国是・スローガンと、それとはまったく裏腹の、上下の乖離・多元性という社会の現実、この両者の併存だといえます。

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では、そうした現状をもたらした歴史上の分水嶺は、どこにあったのでしょうか。世界的な寒冷化による「14世紀の危機」の時代と、それに続く大航海時代だといってよいと思います。

中国はさかのぼれば紀元前の時代から、もともと多元的な世界でした。多くの勢力が割拠するとともに、身分階層も分かれていたのです。それが秦漢帝国の統一のなかで、均質化に向い、いわば「フラット」な社会が実現しつつあった時期もありました。

ところがそうした趨勢が頓挫し、とりわけ地球の寒冷化が顕著となった3~4世紀以降の政権は、改めて多元化と格闘することになります。中国は多くの種族が入り交じる世界となり、社会構造も「士」「庶」という二元的な階層が生まれました。

そんなバラバラで混乱と対立相剋が続く政治・社会をいかに調整し、共存を図るか。数百年間の試行錯誤を繰り返し、10世紀の温暖化と技術革新・経済成長を経て、この命題に対して一つの答えを出したのが、13世紀に登場したモンゴル帝国でした。中国も含むユーラシアの統合は、世界史上の偉観です。

ところが、さしものモンゴル帝国も、世界的な気候変動にはかないませんでした。巨大帝国は14世紀に起こった寒冷化で解体消滅し、その統合のもとにあった中国は、混沌とした多元的な世界に逆戻りします。以後、その多元共存に向けた納得のいく解答が見つからないまま、今日に至っているのです。

一方、同じ寒冷化に対し、ヨーロッパは近代化という形で答えを導き出しました。つまり大航海時代に始まり、ウェストファリア体制を築き、産業革命に至るプロセスです。これは、やがてグローバル化の世界を生み出すことになります。もちろん中国にも、多大な影響を与えました。

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