小泉進次郎は「老後2000万円問題」をどうみたか 人生100年時代の年金を考えるチャンスだ

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――野党は老後2000万円問題を7月の参院選の争点にしようとしています。

年金の給付水準(所得代替率)が低下するという見通しは以前から政府が示してきたことであり、「なぜいま騒ぐのか」というのが年金制度を知っている人たちの認識だ。なぜあそこまでたたかれるかと言えば、やはりタイミング(参院選挙直前)の問題がある。

野党が年金を選挙の争点にすることは、社会保障を考える機会となり、よいと思う。ただ、必ず揺り戻しは来る。旧民主党が政権を取ったときに最低保障年金を創設すると公約したが、3年間何もしなかった。それができなかったことをどう説明するのか。

ファクトの部分も置き去りになっている。議論の前提として、いまの年金制度がどれくらい知られているのか。これを確認したうえでの議論でないと、単なる感情論だけで終わってしまい、どんな年金制度にすべきかという議論にならないだろう。

長く働くことを希望する人の選択肢をつくる

――年金制度改革と関連して、「現役世代」や「高齢者」の概念を見直すことも提唱しています。

社会保障改革の第3の道=リバランスだ。この考え方も骨太方針に入った。これまでの社会保障改革は、給付をカットする第1の道、負担を増やして歳入増加を図る第2の道しかなかった。だが、これだけ社会経済構造が変わっているのだから、まさに構造改革が必要だ。

医学的に証明されている日本人の若返りを基に、従来65歳以上としていた高齢者の概念を75歳以上に見直すことを日本老年学会・日本老年医学会は提唱している。世論調査でも高齢者といえば75歳が妥当だと答える人が最多だ。

そのためにも就労を阻害する壁は撤廃する。誤解なく言っておきたいのは、長く働くことを強いるわけではない。あくまでも長く働くことを希望している人たちに前向きな選択肢になるような制度設計をしていこうということだ。

――5月にアメリカのシンクタンクで行った講演でも、そうした考え方を話しました。

人生100年時代の話をしたが、海外に行くと本当に新鮮に受け止められる。100年時代をまともに考えている国はない。海外では、勤労に対する国民意識が日本と欧米では違うということも必ず話している。

日本では仕事は生きがい、やりがい。「あなたはどれくらい働きたいですか」と世論調査すると、最大の回答は「働ける限り、働きたい」だ。これを後押しするのは、日本しかできない人生100年時代の社会変革になる。働くことに対する日本人の前向きな思いを最大限引き出し、個人の幸せだけでなく、社会全体にとっての幸せにつながるようにすることが「働き方改革」の本質だ。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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