「非常識」な着物ショーが大盛況になったワケ コアなファンより「洋服を着た」ファンを狙え
実際、着物をもっとカジュアルに楽しむ人は増えているように感じる。町やSNSでも、ここ2、3年、20~30代の比較的若い世代を中心に、着物を通過儀礼の式服としてではなく、日常的にファッションとして楽しもうという感覚の人が増えていて、着物を取り巻く環境も少しずつ変化してきている。キモノショーがこうした新たなファン層を拡大したり、消費を促すきかっけになれば業界衰退を防ぐことができるかもしれない。
着物の価格破壊が作り手を苦しめている
とはいえ、問題は山積している。最大の問題は、和装業界独特の流通コストの問題だ。着物を作る生産者から消費者の手に届くまでの間に、いくつもの問屋や小売店などが複雑に絡み合うこの業界では、出荷数の減少による過剰在庫が増えるに従って、委託販売が増加。その中で小売り側と、作り手側、さらには伝統工芸を守りたいとする消費者心理が絡み合い、現状では作り手側の負担が大きくなっている。
そこに追い打ちをかけるように、ネットが台頭したことによる価格破壊が起こり、まっとうな収入を得られなくなったことで作り手の数が減少し、業界が縮小するというサイクルに陥っている。
こうした中、中野さんは「生産者側が弱体化する現状をなんとか変えていきたい」と話す。「東京キモノショーで、メーカーが直接面白い作品を発表する場を提供することができれば、流通コストを削ることができるだけでなく、着物を見せる機会が増えることで全体が盛り上がるかもしれない。こうした流通システムを変える試みが可能となれば、一般の人も少しは関心を持ってもらえるのではないでしょうか」。
ここ何年か、業界の内外で聞こえてくるのは着物に対するマイナスなイメージの話題ばかりだったが、こうした地道な努力の積み重ねによって少しずつ前向きなイメージも芽生えてきている。
そして今、流通業界ではモノやコト、それぞれにストーリーを持たせることが主流になりつつある。こうした中で、一つひとつ手作りである着物こそ、そのストーリーを前面に出していくべきだろう。
それにはまず、それぞれの着物やそれを作る人の背景に直接触れてもらうことが必要だ。それこそ着物イベントの役割なのではないだろうか。
そして、こうしたイベントを活性化するには、業界に携わる人たちが自ら世界を変えていく意志を持つことが大切だろう。伝統だからと言って、古いものを単に引き継ぐだけでは環境変化に対応できない。伝統だからこそ、破壊とイノベーションが必要なのである。
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