「非常識」な着物ショーが大盛況になったワケ コアなファンより「洋服を着た」ファンを狙え

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中野さんはかねて、「もっと自由に、楽しく着物を楽しめる場所が必要」と考えていた。だが、着物は「朝から晩まで着物のことばかり考えてしまうくらい、着物にハマっている人と、そうでない人の隔たりが大きい。つまり“普通の人”は、長らく着物を着たこともなければ、興味があったとしてもなかなか着るまでに至らない」(中野さん)。

加えて、多くの人にとって百貨店や呉服屋は、価格が高かったり、知識がないために無理やり買わされるかもしれない恐怖感もあってハードルが高い。しかも、着物を着るには、着付け教室などに通う必要もあり、そう簡単に始められる趣味ではないというイメージが強い。

「だったら、もっと単純に、1000円を払えば誰でも気軽に、好きなだけ着物を見ることができるイベントがあれば、着物ファンはもとより、そうではないちょっと興味がある程度の人にもニーズがあると思ったわけです」(中野さん)

既存の着物ショーへのアンチテーゼ

中野さんがキモノショーを立ち上げた理由はもう1つある。それはここ5年ほど運営に関わっていた既存のイベントが、一部の着物好きの集まるイベントとして業界の内側へ向いてしまったことだ。

また、大手業者が参入することによって商業的になりすぎてしまったこと、それと同時に運営側も当初の伝統文化としての着物をもっと広めたいという純粋な熱が冷めてしまい、単に区画を売って儲けるだけの実行事務係になってしまったことへの反発である。

着物ショーを立ち上げた中野氏(写真:月刊アレコレ提供)

物事が進化を遂げていく過程で、それまで志を同じくしていた同士が文字どおり袂を分かつということは必ず起こりうる。だが、こういった一見マイナスと思われる分裂のエネルギーこそが、新しいものを生み出す力となるのである。今回の中野さんのケースでも、将来に向けてあるべき姿の理想が衝突し合い、そのパワーによって新しい枝葉が生まれたということなのではないだろうか。

話をキモノショーに戻そう。来場者数が年々増加傾向にあることに加えて特筆すべきは、洋服で来場する人が増えたということだ。一般的に着物が絡んだイベントでは、着て参加することに何かしらの特典を与え集客しようとすることが多いが、今回の着物ショーでは洋服での来場を歓迎していたことも理由としてあげられる。

「実際に会議の中で、洋服来場者割引を取り入れようかっていう意見が出たくらい」と中野さんは言う。「着物をこれから始めたいという人に、なかなか伝わりにくい面はまだある。それでもやっと4回目を終えて、最初はハードルが高いと思って遠巻きに見ていた人たちにも、着物はもっと気軽に楽しめるというキモノショーの意味がだんだん伝わってきたという感じですね」。

こうして東京キモノショーは、先鋭的な、いわゆるコスプレに近いコアな着物ファンが多かった既存のイベントに比べて、年齢層も幅広く、どちらかと言えば着物を楽しんでいる、正統派の着物ファンが数多く訪れる一大イベントに成長したのである。

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