「メディアの衰退」が異形のリーダーを生む必然 先行する「アメリカの危機」に学ぶべき教訓

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情報・通信革命が地球的規模で進行する現代、デモクラシーと「言論の自由」の本家であるアメリカの政治とメディアにどんな変化が生じているのか。

すぐに思い浮かぶのは、政治のメディア戦略、社会の分断・分極化と同時並行のメディア側の分断・分極化、情報・通信革命による新聞の衰退とテレビ界の変容、デジタルメディアの出現、フェイスブックやツイッターなどソーシャルメディアの活用と「フェイクニュース」の問題、1972年にリチャード・ニクソン大統領を失脚に追い込んだウォーターゲート事件などで威力を発揮した「調査報道」の現状は、といったテーマだ。

だが、アメリカの政治・経済、社会などで起こっている大きな構造変化は、日々の報道を外から目にするだけでは簡単には見通すことができない。メディアとの関係も含めて、手がかりとなる参考書があれば、と注意していたら、タイムリーで、かつ中身の濃い論考集に出合った。

現代アメリカ政治とメディアのいま

今年4月刊の前嶋和弘・山脇岳志・津山恵子編著『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社)という本で、アメリカの事情に詳しい学者やジャーナリスト7人が重要なテーマを選び出して分担執筆している。

骨格は「メディアの分極化」(第1~2章)、「トランプとメディア」(第3~5章)、「デジタルメディア台頭による変化」(第6~8章)、「情報漏洩」(第9章)、「調査報道」(第10章)という構成だ。 多くの項目に幅広く目配りし、かつ取り上げたテーマごとに問題点を深掘りするという執筆姿勢が、見えにくい巨大な闇に光を当てるのに効果的である。政治とメディアの実態と今後を探る重要な手がかりとなる。

言うまでもなく、メディアの最大の役割は事実の正確な報道だ。多くの国民は報道を介して政治の内実を知り、それを基に政策の可否を判断して、選挙で意思を示す。独立したメディアの公平な報道は民主主義政治では不可欠の条件である。

その意味で、何よりも気になったのは、分断・分極化、トランプ登場、情報・通信革命という潮流の下で、報道の独立性と公平性が揺らぎ、「メディアの危機」が深刻化しているアメリカの現状だ。危機の状況をどう捉え、回避のためには何が必要か。

独立性・公平性という問題では、政治や権力との向き合い方というメディア側の姿勢、覚悟はもちろん重要である。同時に、政治や行政からの不当な介入を排除しうる安定した強固な経営基盤、それを支える健全な民主社会が欠かせない。その点で最も深刻なのは、インターネットの普及や広告媒体の多様化によるメディアの広告収入の激減だろう。

この本の第6章では、有料デジタル講読者の開拓に成功した「ニューヨーク・タイムズ」の実例を挙げ、「広告ありきで、ジャーナリズムをディスカウントして売る紙面本位の時代は去った。品質の高いジャーナリズムに対し、相応の対価を払ってもらうというのが、新聞の収入構造の姿だ」と、新聞の営業戦略の変化を前向きに捉える見方も提示している。

とはいえ、良質の調査報道などの「品質の高いジャーナリズム」は、手間と時間と費用を要するので、高利益のビジネスモデルを前提とする一定規模の安定したメディア経営が前提となる。広告収入の激減というマイナス要因を乗り越える新しいビジネスモデルを確立できるかどうか。

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