「メディアの衰退」が異形のリーダーを生む必然 先行する「アメリカの危機」に学ぶべき教訓
その壁との闘いでは、同じく第6章で、ネット通販大手「アマゾン・ドット・コム」の創業者のジェフ・ベゾスが、創刊140年近い有力紙「ワシントン・ポスト」を買収し、「逆張りの『拡張路線』に出る。記者や技術者を次々と採用し、ニューヨーク事務所の技術者も増やした」というケースを詳しく紹介している。
もう1つ、第10章で取り上げる「非営利組織が寄付で取り組むジャーナリズムの隆盛」という動きも興味深い。「営利企業の制約の下での報道に飽き足らないジャーナリストらによって、調査報道に特化した非営利組織をつくる動き」で、「中でも大きなインパクトを世の中に与えたのは2007年のプロパブリカの旗揚げだ」という。
金融業で財を成したカリフォルニア州の人物が報道NPOを新設すると発表し、1年に1000万ドル(10億円超)の予算を支えると約束した。「ウォール・ストリート・ジャーナル」の元編集局長を編集主幹に招き、「強者による弱者からの搾取に明かりを照らす公益のためのジャーナリズムに取り組む」と宣言した。
情報・通信革命の影響も大きいが、アメリカの政治とメディアが直面する最大の壁は、冒頭で述べた分断・分極化だろう。同じように、急激な情報・通信革命による広告収入減に遭遇している日本のメディアも、同じ道をたどり、その結果、日本の政治も激動に見舞われるかもしれない。
新聞、テレビ、雑誌媒体など既存のメディアは収入急減で衰弱し、そのためにデモクラシーと「言論の自由」の生命線ともいうべき「政治との健全な緊張関係」が崩壊する危険性は大きい。日本も、先行する「アメリカの危機」から教訓を学び、忍び寄る本格的な危機の回避のために、メディアの側だけでなく、政治も、戦後70年余のデモクラシーの蓄積を無にしない取り組みを本気で検討する必要がある。
無競争で無気力な日本の政治
アメリカが抱える分断・分極化現象が、形を変えて日本にも襲来する可能性はどうか。日本の政治は表向き「1強多弱」で、分断は少数野党の「コップの中の争い」にすぎず、圧倒的多数勢力の与党側は、分断ではなく、統合と結束を維持している。「日米連携」で協調姿勢に徹する安倍首相は、統合と結束を何よりも重視する方針と映る。
国民の側も、自民党支持層と非自民の支持層に分断・分極化が進んでいる印象は乏しい。むしろ「支持政党なし・59.4%」(6月7~10日調査の時事通信の世論調査)という数字に表れているように、政治の側が国民の受け皿の役割を果たすことができず、「政治・政党離れ」の無党派層の漂流が目立つ。
日本政治は長期の「1強多弱」で、分断ではなく、無競争の無気力政治、日本社会は支持政党や階層などによる分断・分極化は顕著ではないが、見えない格差や将来不安による息苦しさが次第に膨らむ漂流社会、という傾向が強い。もしかすると、日本でも、近い将来、ある日突然、アメリカ型の分断・分極化現象が襲い、超異形の怪物リーダーが出現するのだろうか。
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