共働き世帯の台頭で激変する住宅の販売現場 時短・効率重視でVRやARを活用した営業も増

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次にハウスメーカー側の事情について見ていきたい。最も強く影響しているのは、働き方改革関連法の施行に伴う「新36(サブロク)協定」への対応である。

36協定は「時間外労働・休日労働に関する協定届」のことで、新協定では時間外労働の上限を1カ月あたり45時間とすることなどを告示で定め、違反には罰則も設けられている。

大企業では今年4月に施行済みで、中小企業では2020年4月の施行予定だが、建設業界は工事受注量の変動が発生しやすく、作業が天候にも左右されやすいこともあって、2024年4月まで適用が延長されている。

とはいえ、それまでには協定を順守する体制に移行しなければならず、建設業の一翼を担う住宅産業界、とくに先導役と期待されるハウスメーカーは商品や営業手法なども含めた変革に迫られているというわけだ。

ハウスメーカー社員も20~30歳代が主力

もう1つは、ハウスメーカーを構成する社員もまた、顧客と同様に20歳代、30歳代のデジタルネイティブ世代が主力となり、かつ共働き世帯の社員が中心になりつつあるということも変革の大きな要因だ。

筆者は、ハウスメーカーの営業スタッフらや顧客に取材することがあるが、打ち合わせにはメールやLINEなどが積極的に用いられており、そこにデジタルネイティブ世代らしさが垣間見える。

もちろん、顧客側の都合により夜間に打ち合わせをするというケースもいまだ散見されるが、企業側からの残業時間を短縮する促しもあり、以前のように夜討ち朝駆け的な営業、深夜まで残業して提案書を作るなどといった光景は少なくなりつつある。

現在はどの業界、業種でも人材不足が深刻。住宅業界の仕事は中でもマンパワーに頼る部分が大きい職種だが、従来のような業務体系では、若い人材を労働力としてつなぎ止めておくことが明らかに難しくなっており、そうした現状も住宅事業者側に変革を促す要因となっている。

そんな環境の中でも業績を落とせないのが難しいところだ。とくに、住宅業界の場合は新築需要が減退する傾向にあり、受注を減らすことは死活問題であり、さらに収益を減らすこともできない。

念のためだが、冒頭の旭化成ホームズの商品も企画型ではあるが、建築価格が特段安くなっているわけではない。あくまで、顧客にとっての購入のしやすさと企業側の売りやすさの追求による産物なのだ。

同社では、働き方改革を2019年度以降の重要な取り組み項目としているし、それはほかの住宅事業者も同様である。今回は営業面にスポットを当てたが、施工を含む生産の現場でも同様の状況だ。

いずれにせよ、社員の働き方や業務の変革に関わる進捗スピードとその成否が、この業界における生き残りの重要なカギになりそうだ。

田中 直輝 住生活ジャーナリスト

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たなか なおき / Naoki Tanaka

早稲田大学教育学部を卒業後、海外17カ国を一人旅。その後、約10年間にわたって住宅業界専門紙・住宅産業新聞社で主に大手ハウスメーカーを担当し、取材活動を行う。現在は、「住生活ジャーナリスト」として戸建てをはじめ、不動産業界も含め広く住宅の世界を探求。

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