「老後2000万円不足」騒動に映る年金制度の弱点 安倍政権が慌てた本当の未来の危機

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マクロ経済スライド……所得代替率の維持達成を目指して導入されたのが、このマクロ経済スライドだ。少子高齢化社会の到来を予測して、2004年の年金改正時に導入されたもので、年金制度維持のための仕組みだ。

簡単に言うと、年金給付額にマクロ経済全体の変化を反映させて、自動的に給付金額を調整させる制度だ。それまで日本の年金は物価スライドによって調整されていたのだが、少子高齢化による年金財政の問題から、所得代替率維持のためには、人口の減少や賃金の上昇を勘案して、年金給付額を反映させていこうというものだ。

金額は問題ではなく「年金制度」の継続!

2004年以来ずっと物価が下落を続けたために、本来であれば年金給付額は現状より大きく引き下げられているはずだが、同時に賃金も下落したために制度導入以来、年金給付額を引き下げることが2回しかできていない。

そういう意味ではマクロ経済スライドは、現在の日本の年金制度にはふさわしくない制度と言っていいかもしれない。ちなみに、年金給付額を引き下げたのは安倍政権で約6%引き下げられたと報道されている。年金受給者には厳しい政権といえる。

いずれにしても、日本の年金制度はこの2つの制度によって将来的に制度を維持できるとして、100年安心理論というのが登場してきたわけだが、その維持、継続の難しさが指摘されている。それが現在の日本の年金制度の問題と言っていいだろう。

ちなみに、こうした問題は日本だけではなく、ドイツやフランス、イタリアなども直面している。唯一異なるのは、日本政府と異なりきちんと国民に年金財政の窮状を訴えているところだろう。そのために、イタリアなどはポピュリズムが政治に色濃く出てきているといっても過言ではない。

安倍政権は本気で年金財政の継続的な維持を考えているか、あるいは取り組んでいるのか。もし本気で取り組んでいるのであれば、参議院選挙の争点として堂々と国民に提案をすればいいわけだが、今回の麻生大臣の慌てぶりや安倍首相の沈黙を考えると、どうやらこの問題を選挙の争点にはしたくないようだ。

岩崎 博充 経済ジャーナリスト

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いわさき ひろみつ / Hiromitsu Iwasaki

雑誌編集者等を経て1982年に独立し、経済、金融などのジャンルに特化したフリーのライター集団「ライトルーム」を設立。雑誌、新聞、単行本などで執筆活動を行うほか、テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活動している。『老後破綻 改訂版』(廣済堂出版)、『日本人が知らなかったリスクマネー入門』(翔泳社)、『「老後」プアから身をかわす 50歳でも間に合う女の老後サバイバルマネープラン! 』(主婦の友インフォス情報社)など著書多数。
 

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