日本とアメリカ、「シンクタンク」の決定的な差 政策立案の実務経験と世界への発信力が違う

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船橋:もう1つはオルタナティブですかね。野党方も対案作りにシンクタンクを活用しようというニーズはあるはずですが、なかなかそうなっていません。

このインセンティブやニーズを政府や官僚、議員に持ってもらうためには何が必要なのでしょう。

越野:シンクタンクのニーズの違いの根底には、日本とアメリカの政治システムの違いがあると思います。日本では情報収集力があるのは圧倒的に霞が関だという状況があるので、シンクタンクや政策コミュニティがそれに対抗しようとしても、なかなか難しい部分があるのが現状です。

船橋:官僚が抱え込んでいる情報とデータをどうやって国民のものにするかですよね。

越野:その状況を打破する1つの方法は、やはり、「回転ドア」のシステムだと思います。政府と民間シンクタンクで人が行き来するようになれば、情報独占の状況に風穴を開けられる可能性があるのではないでしょうか。

官僚任せではなく、外部機関への委託を

そういう意味では、日本ではなかなか難しいことかもしれませんが、日本の政府から若手の官僚がシンクタンクに出向するというような制度や、反対にシンクタンクの研究員が期限付きで省庁で働くことができる人事交流のシステムがあってもいいのではないでしょうか。それを繰り返すことで、例えば、野党を支えるようなシンクタンクができたりするのかなとも思います。

もう1つは、政府がアウトソーシングする政治文化を醸成することも必要かと思います。カルチャーの違いがあるので大変だとは思いますが、アメリカでは政府がシンクタンクに業務委託することは普通に行われています。

例えば、CSISもオバマ政権が打ち出したアジア重視の戦略である「アジア太平洋リバランス」政策のためのリポートの業務委託を受けていました。もちろん、背景には「回転ドア」の効果でシンクタンクへの信頼が確立されていることはあるのですが、そのように、政府がすべて官僚任せにするのではなく、外部の研究機関に調査や政策立案を委託するようなことができるようになれば、シンクタンクの形成基盤もできていくのではと思います。

船橋:越野さん、ワシントンのシンクタンク現場ならではのお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

船橋 洋一 アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長

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ふなばし よういち / Yoichi Funabashi

1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(2013年 文藝春秋)『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(2006年 朝日新聞社) など。

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