日本とアメリカ、「シンクタンク」の決定的な差

政策立案の実務経験と世界への発信力が違う

越野:たくさんのことを学びながら、次のステップを見つける場所という感じです。学べることは山ほどありますし、人脈を作ることもできます。競争の激しい世界で、次のステップを目指すときに、その道の権威である方に推薦状を付けて推していただけるという関係を築けるのは、シンクタンクで働くことの魅力だと思います。

船橋:これ以上のところはないということですね。

起業精神に溢れるシンクタンク

ところで、ぼくは今回、著書『シンクタンクとは何かー政策起業力の時代へ』を通じて「政策起業力」という概念を打ち出してみたわけですが、越野さんからみて、「この人こそ政策起業家を体現している」と思える人や、「これこそが政策起業力ということだ」と思えることはありますか。

越野:起業家として資金獲得には新しいアイディアや魅力的なコンセプトがなければならないし、研究成果は官僚がハンドブックとしてピックアップしたくなるようなものでなければなりません。ですから、一見、非現実的であるかのような枠組みや、そのアプローチの仕方を発想することができて、かつ検証可能なプロジェクトを実行できて、それが実現可能であるという結論を提供できる研究者が、政策起業家なのかなと思います。

船橋:具体的に名前やプロジェクトを挙げていただけますか。

越野:また上司の話になってしまいますが、マイケル・グリーンはその1人だと思います。歴史的にアメリカのアジア戦略をデザインされてきたということもありますが、目先の外交課題という視点ではなく、例えば、敵対していたり疎遠であったりする国同士の新しい枠組みを作ったら、地域全体がどうなるかとか、そういうアイディアをどんどん出していかれる方だと、一緒に働いていて思います。アイディアだけではなく、それを体現する短いフレーズを作ったり、絵や写真を見つけてきたりして、それを売っていく能力にも長けた方です。

また、小さなシンクタンクには起業精神があると感じます。友人が働いているFDD(Foundation for Defense of Democracies)は、情報機関で働いていた人たちが、9.11の後に設立したシンクタンクですが、これまでの貿易関連の制裁の報告書のようなものを収集して、例えば、北朝鮮や中東の不正資金の流れなどを日々細かく分析しています。

アメリカ政府が、具体的にどこを制裁していて、どこは制裁していなくて、どこが制裁可能かということなどを、具体的なエビデンスを添えてレポートするのです。それは、例えば、政府への対案を作るうえでは強い武器になりますから、ニーズがあると思います。そこまでのデータベースを集めるのには相当なマンパワーも必要ですから、1つの視点に特化したシンクタンクも、政策起業的プログラムといえると思います。

船橋:そういう一芸に秀でたシンクタンクは強いということですね。とくにデータベースを作れるような研究機関ですね。

ぼくは、日本でもシンクタンクを含む、分厚い政策コミュニティが作れたらいいなと考えています。そこで、越野さんからご覧になって、日本のシンクタンクがどのように見えるのか、課題はどこにあるのか、お聞かせいただけますか。

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