日本とアメリカ、「シンクタンク」の決定的な差 政策立案の実務経験と世界への発信力が違う

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越野:1つは、入り口の話になりますが、キャリアのオプションが少ないことだと思います。ワシントンには、将来、政治の周辺で働くことを志す学生がたくさん集まってきます。そして卒業後のオプションもいろいろあります。政府のほかにも、コンサルティング会社も、シンクタンクもある。そこで経験を積んでから、博士課程に進むこともできるし、シンクタンクなどで働いた経験と知見を活かしてフェイスブックのような大企業やメディアに進む道もあります。そういうふうに、政策を勉強して、それを活かせるオプションがたくさんあるから、志のある学生が集まるのだと思います。それが、「回転ドア」のよさです。

政策集団は霞が関のみ、日本のシンクタンクの課題

日本を見てみますと、「出向」という形で官民の間の交流があるようですが、政策を仕事にするなら官僚になるか、アカデミアの世界に挑戦して、専門家としての地位を築いた後に、政府に助言するというような形しか、今の段階ではないように思えます。だから、東京にも政策に関心のある学生は大勢いるはずなのに、志す人は少ないのではないでしょうか。そこが、今、日本でシンクタンクを含む政策コミュニティを形成していくうえでの課題の1つだと思います。つまり、なり手がいないということでしょうか。

もう1つは、これも「回転ドア」に関係のあることですが、アメリカのシンクタンクが強いのは、やはり、政府で政策立案の実務経験がある人がシンクタンクの中に大勢いて、主体的に政策を形作る機能を持っているからです。そのあたりの状況がまったく違います。

それからもう1つ重要なカギは、世界への発信力です。ベースに政策を作る能力があるからですが、アメリカのシンクタンクが提案する政策は、アメリカ政府や国内企業だけでなく、世界的なニーズがあるのだと思います。それはもちろん、超大国のアメリカには外交、軍事、経済の力があって、これまで国際秩序を作ってきたからです。

日本のシンクタンクを見てみますと、日本の社会の課題は何か、日本の社会のニーズは何かというところに焦点が絞られている気がします。大切なのは、日本のシンクタンクが国際性をどのように捉えていくかということで、世界が日本のシンクタンクに求めることもあると思います。日本が直面している少子高齢化や、「失われた20年」、震災、原発事故などの経験を学びたいと考える国も多いと思います。とくに今は、これまでは世界に開かれてリーダーシップを発揮してきた欧米諸国が内向きになっていく中で、反対に日本が世界に向かって開いていって、スタンダードを設定したりソフトパワーを行使したりするチャンスでもあると思います。

船橋:そうですね。

越野:そのために不足しているのは、海外の研究者の受け皿ですね。そのためには、エコシステムも必要ですし、今後は、英語だけでなく、中国語やアラビア語なども共通語として使えて、世界中の国々の研究者と共同でプロジェクトを回すことができる環境とか、グローバルな発信力を発揮できるような経験や知見を持つことが必要だと考えています。

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