余剰金を政治団体に戻していたら、政治団体の収支報告書を調べることによって、余剰金の行方がわかります。では、政治団体に戻していなかったら? 「報告の義務がない」という壁に阻まれ、誰でも閲覧できる公開情報では追うことができなくなるのです。
つまり、政党交付金や公費負担など「公的資金」でサポートされているにもかかわらず、余ったお金の行方を確認できないという事態が続出しているのです。
議員たちは、これをどう説明するのでしょうか。
議員たちの言い分は「報告義務ない」
「公職選挙法では選挙運動費用の残金の使途について、とくに規定を設けていないし、報告義務もない。残金は法令に従って適正に処理しています」
余剰金の行方を確認できなかった議員への共同取材で、最も多かったのはこうした回答でした。与野党に違いはありません。自民党では、内部で“模範回答”が示されたのか、質問状に対し多くの議員が、一言一句、同じ文面の回答を寄せました。
余剰金に関する公選法の規定はないのに、「法令に従って適正に処理」とは、いったい、何を意味するのでしょうか。
「『適正に処理』といったあいまいな言葉で逃げるしか方法がなかったのでしょう」
「政治活動に使ったなら、政治資金収支報告書に収入として余剰金の返却を記していなければなりません。それがないと、政治資金規正法違反(不記載)です。一方、余剰金を議員側が仮に私的流用していたとしても、それを公には言えないでしょう」
1円単位まで返却の議員 「公金入っているから当然」
余剰金をピッタリ1円単位まで正確に政治団体に戻した議員はいるのでしょうか。
「ピッタリ組」は64人でした。
現職閣僚20人のうちでは、安倍晋三・首相、菅義偉・官房長官、山本順三・国家公安委員長の3人です。
そのほかの主な「ピッタリ組」を見ると、自民党では、小野寺五典・前防衛相、野田聖子・前総務相、稲田朋美・元防衛相、田村憲久・元厚生労働相、高市早苗・元総務相、伊吹文明・元文部科学相らがいます。
野党側では、枝野幸男・立憲民主党代表、野田佳彦・社会保障を立て直す国民会議代表、大塚耕平・国民民主党代表代行、福山哲郎・立憲民主党幹事長、安住淳・元財務相、山本太郎・参議院議員らが「ピッタリ組」でした。
こうした議員は、現行制度の枠内で、余剰金の行方を可能な限り明らかにしたと言えます。
「ピッタリ組」では例えば、大塚・国民民主党代表代行の事務所は次のように回答しています。
「党本部の原資には政党交付金も含まれているため、余剰金が発生した場合には政党支部に戻すべきと考えている」
専門家は、余剰金の処理について公選法の見直しを指摘しています。
「候補者のために税金が使われているのだから、余ったお金の行き先は公選法ではっきりさせるよう規定すべきです。しかし、自らを縛るような法改正に議員が踏み出せるでしょうか」
行方を確認できない議員の50人余りは未回答
取材チームは、報告提出義務のない比例単独当選の衆院議員などを除く500人余りに質問状を送りました。余剰金の行方が確認できない国会議員268人のうち、6月14日現在、50人余りから回答が得られていません。
余剰金の行方をどこまで明らかにするのかは、各議員の政治姿勢に直結する問題です。共同チームはこの問題を引き続き取材していきます。
次回は閣僚を中心に、個別事情に迫ります。
共同取材チームは、本間誠也、当銘寿夫、木野龍逸、宮本由貴子、伊澤理江、穐吉洋子ら(以上、Frontline Press)、岩井奉信、安野修右、山田尚武(以上、日本大学法学部)で構成しています。
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【2019年7月3日17時02分追記】初出時、今井絵理子議員の余剰金と余剰金の扱いについて誤りがありましたので一覧表の該当部分を修正しました。関係者の皆さまにお詫びして訂正します。
【2019年7月3日17時02分追記】初出時、次ページ以降の一覧表のうち石井啓一議員(公明)の選挙区、谷田川元議員(国民)の余剰金の扱い、川田龍平議員(立憲)の余剰金額、にそれぞれ誤りがありましたので該当部分を修正しました。併せて公開資料で余剰金の行方を確認できなかった議員の数を修正しました。