色と欲で破綻した63歳男がつづる底なしの不幸 「ボダ子」を書いた作家の赤松利市氏に聞く

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父のつてでゴルフ場の芝生管理の仕事を始めた。すぐにあらが見えてきて、品質管理のビジネスモデル特許を取得し、35歳で会社を起こしました。儲かりすぎるくらい儲かって、1人のときも1億円稼いで、起業してからは年商13億円、従業員は125人おったね。バブル景気にギリギリ乗れた。

娘を追って東京にきて路上生活

──しかし、歯車は狂い出す。

赤松利市(あかまつりいち)/1956年生まれ。関西大学文学部卒業。大手消費者金融に入社するが30歳で退社。35歳で起業するも2011年倒産。宮城県で土木作業、福島県で除染作業に携わる。16年帰京。18年初の著作『藻屑蟹』で第1回大藪春彦新人賞受賞、本作が4作目。(撮影:尾形文繁)

3番目の妻との間にできた娘が、境界性パーソナリティー障害、通称ボーダーと診断された。本のタイトル『ボダ子』はその娘のことです。家族を直視せず仕事に走り、金に任せて色と欲にどっぷりつかっていた私は、無数のリストカットで蛇腹と化した娘の腕を知らなかった。まるでひとごとのように引いて見ていた母親から離れ、娘と2人で2年間ワンルームマンションにこもった。自殺を恐れて娘から目を離せず、仕事が回らない。そして倒産。2011年、東日本大震災の年です。

復興景気で一発当てようと、宮城県へ向かいました。土木作業員をやり、福島では除染作業をした。極寒の中の過酷な労働、いじめ、暴力、裏金、不正。そもそも作業員など人間扱いされない。とにかく金を稼ごうと、大きなビジネスを立ち上げようとしたが、思惑どおりにいかない。そんなとき、ボダ子が自分をもてあそぶ男たちと遁走した。身一つで娘を追って東京へ戻りました。そして漫画喫茶か路上で寝る生活が始まった。

──娘さんがボーダーというのも事実なんですか?

ええ、そのとおりです。厄介な病気で20歳までの自殺率が10%超。入院した精神病院で問題を起こして強制退院させられても、転院を受け入れてくれる病院はなかった。これも書いたとおりです。

──ビジネスマンとしての才覚、野望に突き動かされつつ、娘を愛してる。その母親で元妻の、一度スイッチが入ると呪詛(じゅそ)の言葉を延々吐き続ける粘着質、金への異常な執着。そこから逃避したいという浩平、もとい赤松さんの思いは、正直わかるような気がします。

いやクズでしょう、こんなもん。娘に寄り添ってないです。30代で会社起こして、40代は仕事がすべてでイケイケでしたからね。北海道から沖縄まで十数カ所のゴルフ場を回って、忙しくやりすぎた。娘に寄り添ってなかったという反省はあります。娘については、こうして話しているだけで動悸がするんです。きついな、ちょっと。

──ボダ子、娘さんは今どうされているんですか?

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