色と欲で破綻した63歳男がつづる底なしの不幸 「ボダ子」を書いた作家の赤松利市氏に聞く

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わからない。あのとき見つけられなかった。ボダ子の母、元妻も知りません。今籍に入っている4番目の嫁がいるんですけど、彼女とももう10年連絡取ってないです。たぶん苦労してると思うけど。

東京に戻ったときの所持金は5000円。アルバイトに応募しまくって、返事が来たのは3件。違法のキャッチ、キャバクラのボーイ、そして上野のおっぱいパブ。ここで客引きの仕事をしました。

初めて書いた『藻屑蟹』で大藪春彦新人賞を受賞した後、賞金、印税全部渡すという約束で、知人の家に転がり込んだんです。でもこれ書いててね、あかん思うた。自分みたいな人間が、布団のある所で寝ちゃあかんわと。ホームレスに戻るべきやと思って、今は漫画喫茶住まいです。

色と欲で破綻していく人間がテーマ

──でも、2年先まで予約で埋まる注目作家になった。もう居を構えたりしないんですか?

ある程度余裕ができたころ、借家物件を見に行ったんですよ。でも見てるうちに、おまえの居場所は違う、おまえは漫画喫茶で、最後そこから救急搬送されてあの世に旅立つ、そういう生き方でいいと思ったですね。小説書き続けて死ねたらええわと。

『ボダ子』(書影をクリックするとアマゾンのサイトへジャンプします)

東北で土木作業員、除染作業員やって、こっちに帰ってアルバイトを転々とした。その前はバブル後半で会社経営してたので、非正規雇用とか格差社会、相対的貧困とか全然実感なかったんです。でも自分で経験してよくわかった。そこから見た今の社会の歪みを書きたいと思いました。1冊書きましたが、すぐ「何を偉そうに」と思った。おまえのテーマは欲と色にまみれて破滅していく人間だろうと。

もう間に合わない作品は仕方ないからそのまま出します。でもその先の長編は第2校までいって、全ボツにしました。平成を生きた1人の男を書いたんですけど、やめました、そんな偉そうなもの。色と欲で破滅していく人間が私のテーマ。『ボダ子』を書いて、本心からテーマにすべきことが何かわかりました。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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