「安売りの元祖」ディスカウント店の意外な現状 ロヂャース、多慶屋の競争力はどこにある

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訪れたもう1軒は、御徒町に全8館を構える「多慶屋」。食品から家具・家電、紳士服にブランド品まで幅広く扱う総合ディスカウントストアである。こちらも歴史は古く、店を多慶屋の名前に改名したのはやはり1970年代半ば。近隣には上野アメ横や秋葉原の電気街と、地理的にも安売りの気質があったのだろう。こちらの店にも時々訪れた記憶がある。

まずは本館をのぞく。1階は食品フロアだが、ロヂャースやドンキとは異なり、PB勝負はしていない。しかし、食品スーパーに引けを取らない規模の品ぞろえ、そして20~30%オフの目玉商品などが目白押しで見ていて楽しい。

さらに階を上がれば、ブランド物の時計だったり、調理家電や白物家電、健康・美容家電のフロアもある。棟続きの別フロアには、外国人観光客に人気のコスメ商品もずらり。紳士物のスーツのフロアやビジネスバッグ、革靴もそろう。なんでもありだ。

この風景、どこかで覚えがあると思ったら、昭和のデパートがこんな感じだった。フロアごとに違う売り場が広がり、ワクワクさせられる。まさに百貨を扱う店、そういう言葉が似合う。

正直、目を見張るほど安いかといわれるとすべてがそうでもないし、アメ横や秋葉原と勝負すると厳しいものもあるだろう。ただ、そこは総合ディスカウントストアの強みだ。こんなものも扱っているのか、という宝探し感はほかでは味わえない。大根やスイカを売りながら、家電や事務机も扱うというディスカウントストアは、そうそうないのではないか。

その場所柄、インバウンドを意識した商品も多い。日本の土産は多慶屋だけでかなり賄えそうだ。訪日する知人がいたら勧めたい場所だ。

安売り=現金商売は今は昔

こうしたディスカウントストアに筆者が訪れていたのは、もう20年以上前になる。これらの店はオイルショックにバブル崩壊、リーマンショックも経験してきたわけだ。長いデフレの時代、多くの安売り業態が生まれ、あるいは外資が進出し、撤退していったものも多い。ネット通販との戦いもし烈だ。それでも、老舗ディスカウントストア2社が生き残ってきたのは、消費者の根強い支持があったからだろう。

買い物するという行為は楽しくなくてはいけない。楽しさを演出するのはオトク感だったり、掘り出し物を探すワクワク感だったり、そして値段そのものへの満足度だったりする。ドン・キホーテにしろ、コストコにしろ、価格面で人を引き付ける店とはその要素を備えている。

最安の物を探して買うだけならAmazonで検索すればいいかもしれないが、「こんな安いものを発見したぞ」という楽しみを提供するのが、ディスカウントストアが生き残っていく道ではないだろうか。今回訪れた2店の戦略はそれぞれ異なるが、目指すのは安売りレジャーランド、リアル店にしかできない宝探しの場になってほしいと思う。

なお、意外だったのは、どちらの店もキャッシュレス対応が進んでいたことだ。ディスカウントストアは「当然現金払い」というイメージは、今は通用しないようだ。クレジットカードや電子マネーは当然のこと、多慶屋は一部の共通ポイントやコード決済にも対応している。

安く物を買いたいだけでなく、ポイント好きな消費者にもきっちりアピールしているのだ。古い業態でありながら時流には確実に乗る姿勢が、昭和・平成を生き延びてきた気骨かもしれない。

ディカウントストアという業態は過去のもの。100円ショップや安売りドラッグストアに駆逐されてしまうのでは、と考えていた最初の心配は楽しく裏切られた。久しく訪れていないという人は、一度のぞきに行ってみてもいいかもしれない 。

松崎 のり子 消費経済ジャーナリスト

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まつざき のりこ / Noriko Matsuzaki

20年以上にわたり『レタスクラブ』『レタスクラブお金の本』『マネープラス』などのマネー記事を取材・編集。家電は買ったことがなく(すべて誕生日にプレゼントしてもらう)、食卓はつねに白いものメイン(モヤシ、ちくわなど)。「貯めるのが好きなわけではない、使うのが嫌いなだけ」というモットーも手伝い、5年間で1000万円の貯蓄をラクラク達成。「節約愛好家 激★やす子」のペンネームで節約アイデアも研究・紹介している。著書に『お金の常識が変わる 貯まる技術』(総合法令出版)、『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金が貯まらない』(講談社)、『定年後でもちゃっかり増えるお金術』(講談社)。
【消費経済リサーチルーム】

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