30年前と同じ轍を踏む「地銀」が抱える構造問題 もはや持続可能なビジネスモデルではない

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かつて、首都圏の大企業・中堅企業マーケットでは、大手銀行が組成したシンジケートローンの一部を地方銀行が買い取るパートアウト(売却)が目立っていたが、「いまは、パートアウトよりも、一本釣り的な融資姿勢が広がっている」と、別のメガバンク関係者は指摘する。

2019年の年明け以降、「地方銀行の低利攻勢はやや弱まってきた」という声もあるものの、その一方では、いまだに地方銀行による首都圏の新規出店は続いている。いまは、東京・江戸川区などがホットゾーンである。

30年前と同じ動きが始まった

こうした店舗進出の動きは30年ほど前にも際立った時期があった。ちょうど、バブル経済の時代である。そして、果敢に実行されたのが不動産所有者に対するアパート・賃貸マンション建設ローンだった。俗にいう「アパマンローン」である。

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しかし、地価高騰による相続税増大への節税目的でのアパート・賃貸マンションは結局、乱造、供給過剰となり、バブル崩壊と相まって、入居率の低下と家賃の押し下げ圧力が同時に発生した。結果的に、事業者は家賃収入のキャッシュフローが先細った。揚げ句の果てに生じたのは、事業者による借入金の返済不能の続出だった。

銀行は不良債権を抱えて、債務者である多くの事業者は結局、担保設定した不動産を売却せざるをえなかった。それによって、銀行は貸金の回収という保全を行ったわけだが、やはり、批判を避けることはできなかった。そして、新規出店した店舗の撤退が相次いだのだった。

その約30年前と同じ動きが再び始まったのが、ここ数年のことである。この事態をみるにつけ、結局のところ、変化の乏しさを感じないわけにはいかない。しかも、その間、人口減少が地方に行くほどに深刻化することは、かなり以前から想定されていたといえる。

政府機関の統計不正が露呈したが、そもそもあらゆる統計や経済見通しはきわめて不安定な要素で編み出されている。そのなかでは、人口統計や人口見通しは長期的であっても、きわめて精度が高い。それにもかかわらず、現状をみるにつけ、その見通しから読み取れる将来像を真摯に受け止めることができなかったのではないかと思わずにはいられない。

浪川 攻 金融ジャーナリスト

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なみかわ おさむ / Osamu Namikawa

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカー勤務を経て記者となる。金融専門誌、証券業界紙を経験し、1987年、株式会社きんざいに入社。『週刊金融財政事情』編集部でデスクを務める。1996年に退社後、金融分野を中心に取材・執筆。月刊誌『Voice』の編集・記者、1998年に東洋経済新報社と記者契約を結び、2016年にフリー。著書に『金融自壊――歴史は繰り返すのか』『前川春雄『奴雁』の哲学』(東洋経済新報社)、『銀行員は生き残れるのか』(悟空出版)などがある。

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