JR九州vs外資ファンド「株価倍増」めぐる攻防戦 にっこり笑って「鉄道事業には注文付けない」
ファーツリーに話を戻す。ラテン語で「冥界の番犬」を意味するサーベラスに対して、ファーツリーとは「もみの木」。ほのぼのとした社名であるが、ファーツリーも株式を高値で売却して高い利益を狙っていることは変わりない。
では、ファーツリーがJR本州3社ではなく、JR九州に狙いを付けた理由はなぜか。それはJR九州の経営を改善すれば株価が上昇する余地が大きいと考えたからだ。
JR九州の公開価格は1株2600円。初値で3100円をつけたものの、現在の株価は3240円(5月31日終値)にすぎない。スターン氏は、駅ビル開発など不動産資源を有効活用するとともに、負債を増やすと同時に資本を減らすといった資本構成を改善することで、株価を上げることができると考える。
「JR九州には現在の株価の2倍以上の価値がある」とスターン氏は話し、株価7000円以上の実現を目標とする。そのためにいくつかの提案をJR九州に対して行っている。
自社株買いを提案、JR側は反対
提案の筆頭に挙がるのが自社株買いである。ファーツリーの提案は、社債を発行してその資金で株式の10%を買い戻すというものだ。
スターン氏によれば、JR九州は負債を活用した効率的な企業経営がなされていないという。自社株買いは、手元資金の有効な投資先がない場合に、自社株を買い、その後に株式消却を行うことで株式数を減らし、1株当たりの利益水準を高める手法だ。
しかし、JR九州は「今後多額の設備投資の予定があることに加え、大規模な負債調達による自己株取得は財務健全性を損ね、事業リスクへの対応力を弱める」として反対する。もっともJR九州は、3月に発表された中期経営計画で「状況に応じて自己株取得を行う」と表明。自社株買いそのものを否定しているわけではない。
株式の10%というと、500億円を超える規模の自社株買いが行われることになる。2017年の豪雨で被災した日田彦山線について、復旧後に必要とされる年間1億6000万円の維持費用を誰が払うかについて議論が紛糾している現状で巨額の自社株買いを行った場合、沿線住民から「自社株買いを行う資金の余裕があるなら、日田彦山線の維持費用を負担すべき」という声が出るのは必至だろう。
この点について、スターン氏は、「コメントすることはできない」としている。
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