霞が関に依存しないシンクタンクが必要な理由 カギは政策起業力という「戦略と統治」のプロ

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アメリカのカーネギー国際平和財団(CEIP)、外交問題評議会(Council on Foreign Relations)、ブルッキングズ研究所、ランド、CSIS(戦略国際問題研究所)、PIIE(ピーターソン国際経済研究所)や英国のチャタム・ハウス(王立国際問題研究所)、IISS(国際戦略研究所)などである。20世紀初頭以降に出現したこれらのシンクタンクはさまざまな政策構想を世に出し、時代をつくってきた。

これらのグローバル・シンクタンクは秀でた政策起業家を生み出してきた。

一言で、彼らの特質を挙げれば、それは、「戦略と統治」の両面を研究し、それを政策提言に生かした“学究実務家(scholar practitioner)”であるということである。政策企業力とは「戦略は統治を超えられない」真実を見据え、その両者の関係と統合のあり方を探求する「戦略と統治」のプロフェッショナルにとって必要な要件であり資質である。

日本もグローバル・シンクタンクをつくる時がきている

冷戦後、さらには21世紀に入って、世界のシンクタンクをめぐる状況が激変している。

MGI(マッキンゼー・グローバル・インスティテュート)などの営利系のシンクタンクやWEF(世界経済フォーラム)や ICG(国際危機グループ)のようなグローバル・プラットフォーム型のシンクタンク機能、さらにはAIやビッグ・データを使ったデータ解析を得意とするC4ADS(先進国防研究センター)のような研究機構も生まれている。シンクタンクは多様化し、進化しつつある。

一方、ポピュリズム政治の台頭とともに、世界の有力なグローバル・シンクタンク(とくにワシントンのシンクタンク)の場合、政治階級(ポリティカル・クラス)として右と左のポピュリズム勢力の攻撃の対象になりつつある。ワシントンでは、右のトランプ政権と左のエリザベス・ウォーレン上院議員(民主党、マサチューセッツ州)の双方とも伝統的なワシントン・シンクタンクに対し厳しい目を注いでいる。

加えて、中国やロシアのような専制政治体制が自国のシンクタンクを国家の対外発言力と影響力浸透と情報戦の道具として使い始めている。中国の場合、習近平指導部は世界に投射したい“ナラティブ”をより明確に、より効果的に伝える公共外交の尖兵の役割を自国のシンクタンクに期待している。

これに対して欧米のシンクタンクは、中ロの国家主導のシンクタンクの地政学的な影響力行使の実態を監視し、対抗する姿勢を強めつつある。シンクタンク・パワーが国際政治のパワーにからめとられ、またそれに絡み付こうとする地政学的力学が生まれつつある。

シンクタンク・パワーの時代、日本は、シンクタンク小国の地位に甘んじている。「霞が関というシンクタンク」に依存し続けることはもはやできない。そして、日本と世界が直面する切迫した課題を世界と共同で研究し、そこから普遍的な政策理念や政策構想を絞り出し、それを世界と共有する動きはか細い。

日本もグローバル・シンクタンクをつくる時である。その礎となる政策起業力を鍛え、政策起業家を育てなければならない。

本連載では、シンクタンク・パワーと政策起業力のフロンティアと日本の課題を、シンクタンクや大学、NPOの政策コミュニティーの現場で活躍している第一線の政策起業家たちと議論し、掲載していく。
船橋 洋一 アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長

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ふなばし よういち / Yoichi Funabashi

1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(2013年 文藝春秋)『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(2006年 朝日新聞社) など。

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