霞が関に依存しないシンクタンクが必要な理由

カギは政策起業力という「戦略と統治」のプロ

白川は、近著『中央銀行 セントラルバンカーの経験した39年』(2018年)で、次のように記している。

日本の経験は学界でも政策当局者の議論でもしばしば取り上げられ、「日本の教訓」も広く共有されていたにもかかわらず、結果的には欧米諸国も日本と同じような経験をした。それでも海外の経済学者からは、日本の経験は今なお「謎めいたもの」(enigma)と受け取られており、日本の経験から得られる教訓が経済学の道具箱に納められるには到っていない。不幸なことに、日本の経験は欧米諸国をベースに組みたてられた主流派経済学の理論を通して議論するか、普遍的な説明を拒み「日本モデル」として独自性を強調するかのいずれになりがちであった。(同書665ページ)
日本にとって不幸だったことは、金融機関から独立したシンクタンクが少なかったことである。こうした状況は徐々に改善されているが、「時代の空気」に染まらない独立したシンクタンクの存在やリサーチにもとづくオープンな政策論議の重要性を感じる。(同書116ページ)

世界に発する知的拠点としてのシンクタンクよ、出でよ

白川がここで言おうとしていることは、次のようなことである。

日本は自らの経験と取り組みと教訓から学んだことを理論として、さらには政策として世界と共有する意思と能力を欠いている、したがって、その営みは世界の研究者が埋めてしまう。

日本発のアイデアを世界に発信し、世界と対話し、それを普遍化して、世界アイデアの“道具箱”に登録する必要がある。そのためにも、日本国内で実証に基づく調査・研究を盛んにし、開かれた議論を深める。独立した立場でそうした議論を主宰し、そこでの成果を世界に発する知的拠点としてのシンクタンクよ、出でよ。

今世紀、日本を取り巻く内外の環境はさらに厳しくなるだろう。中でも、次の3つの変化は「国の形」を変えるほどの巨大な衝撃をもたらすに違いない。

① AI、ブロックチェーン、5G、量子コンピューティングなどの第4次産業革命による技術革新の社会実装に伴う巨大なイノベーションとディスラプション
② 中国の覇権追求とアメリカの世界からの撤退に触発されるパワー・バランスの変化、そして、それと関連しつつ進む各国の地政学・地経学的な戦略計算による自由で開放的な国際秩序のきしみと亀裂
③ 人口減少・少子高齢化、気候変動、移民とマイグレーション、財政危機、格差拡大、世代間闘争とポピュリズムの噴出とそれらによる経済成長と経済福祉、さらには民主主義への影響と脅威

どの課題も、利害関心層は多岐にわたっており、それらに幅広く働きかけ、熟議を行う、それもできれば独立した立場からの「議論の場を主宰する力」(convening power)を必要とする。

多くの場合、技術革新やイノベーションは政府ではなく民間主導で駆動され、それを社会実装する際、政府と企業の間にガバナンス・ギャップが生じる。その果実を公共の「最大多数の最大幸福」に供するには、官と民の相互補完的連繋(PPP=Public Private Partnership)が求められる。

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