明子さんは、「石井が言う環境の一部は、娘たちにとってはすでに日常です」と話す。クラスには、インド、イラン、イタリアをはじめ、外国生まれの子どもや親も多く、宗教もキリスト教、ユダヤ教などさまざまだ。 家族が授業に出向いて家庭の文化を紹介したり、学校を挙げてのインターナショナルデーも恒例行事。第二外国語のスペイン語授業は5歳から始まる。家族の多様なあり方も認識され、同性結婚の保護者や、親の離婚でふたつの家庭を行き来する子どもなどのサポートもある。しかも、こうした学校のあり方は、アメリカ都市部では珍しくないという。
「子どもの頃から多様性に触れ、相手の違いに対する敬意の気持ちを学べることは貴重です。批判的思考の育成にも力を入れ、5歳で事実と意見の違いを習ってきたときにはうなりました。子どもたちも個性豊かで、論理的な主張も得意です」
そんな環境に加えて、娘2人は毎週土曜日、補修授業校に通って国語と算数を学ぶ。普段、現地の小学校に通う2人にとって日本語は第二言語だが、日本国内で使われているのと同じ教科書を使って学ぶ。
「長女が6歳のときに、補修授業校は先生が話すだけの授業でつまらないけど、アメリカと日本の学校の違いが見れて面白い」と言ったことがあります。子どもながらに異文化を認識して、その特性に合わせて柔軟に行動し、かつ違いを面白がれるのだと感心した記憶があります」
異国で育つ娘たちは、日本で受け入れられるのか
「もちろん、悩みもあります。毎年、娘たちと日本に行き、子どもたちも日本が大好きですが、日本語の会話には、アクセントがあり、書き言葉も完璧ではなく、知らないことも多々あります。娘たちと同じようにアメリカで育った人たちが、成長し日本に住んでみても、なかなか日本社会に受け入れられないと聞くこともあり、不安に思うこともあります」
それでも見方を変えると、彼女たちには国に縛られずに生きて行くうえでの強みもあるかもしれない。「成長するにつれ、自分の居場所がわからず、アイデンティティ・クライシスに悩む日もくるかもしれませんが、一方で、異文化に身を置いても、自分の中に強い軸を持ち、しなやかに発想し、柔軟に行動できる感覚やコミュニケーション能力を体得できればと。そのためには、価値の基軸と独自の視座を若いうちにしっかりと作り上げることが、不可欠になるのだと思います」。
「生き残れるのは最も強い種ではない。最も賢い種でもない。変化に対応できる種こそが生き残るのだ」というのは、進化論で知られるダーウィンの思想を後世の人が表現した名言だが、明子さんにはこの言葉がグローバル時代の子育てのエールとして響くという。
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