それでも石井教授は朝食と夕食を自宅で妻子と共にしている。これだけでも日本のビジネスマン基準に照らせばすごいことだが、アメリカの父親は、平日の学校行事などにも積極的に参加する。
「娘のクラスには、あえて休職して、専業主夫を楽しむお父さんもいるほどです。でも、わが家の場合は発想を転換して、石井が忙しくて学校に来られないなら、学校を彼の職場に持って行けばいいと思ったんです。娘の友達やその家族を招いてラボの案内をしたり、学校の社会見学の受け入れもほぼ毎年やっています。先生や保護者に石井の人となりを知っていただく格好の機会ですし、何より喜んでもらえるのがうれしい」
メディアリテラシーをどう教えるか
ところで、菅谷さんは、専門とするメディアリテラシーを、普段、娘さんにはどのように伝えているのか。
念のため補足すると、メディアリテラシーとは、メディアで伝えられることは、世の中のほんの一部を切り取ったもので、むしろ、伝えられていないことや別の視点の存在を認識し、物事の多様性を理解したり、批判的な思考を養うことだ。そして、明子さんがこのテーマに関心を持った原点には、母親との日常的な会話があったという。
「母からは多角的なものの見方を教わりました。子どもの頃『○○ちゃんはこう言った』と話すと『でも、ほかの人はこんなふうに思うかも』と、母はあえて違う視点から問い直してきました。だから娘たちにも、物事を一面的にとらえないようにしています。メディアを話題にすることもありますが、とにかく、話しをさらりと流さずに、皆で、突っ込みを入れ合っている感じです。我家は皆話し好きですが、最近は6歳の次女も参戦して、大変なことになっています(笑)。」
ところで、本連載のテーマである「グローバル」について、世界の頭脳が集まる大学院で教える石井先生は、どうとらえているのだろうか。
「私はあえてグローバル学習を『海外雄飛&他流試合』と呼んでいますが、自分とはまったく異なる価値観を持つ人たちの中に飛び込み、ぶつかり合い、競争し、切磋琢磨しながら『協創』していくことでしか、グローバルな感覚は身に付かないと思います。
日本の若い人々を違う文化の中に放り込むと、彼らは初めて世界の多様性に気づきます。そしてそれまで均質的な社会で育ってきた自分の適応力のなさ、柔軟性のなさ、論理性のなさ、思考の閉塞感にハッとさせられます。
このショックを乗り越え、多様性に感謝しつつ、自分のアイデアをほかの価値観を持つ相手に理解できるように翻訳する訓練をすることが大切です。戦って相手を打ち負かすのではなく、お互いのよいところを認め合い、違いを『止揚』して、新しい相互理解の基盤をつくっていくこと。これこそが本当の学習です」。
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