『異常に転勤が多い会社に困っています』(34歳・男性) 城繁幸の非エリートキャリア相談
<城繁幸氏の診断>
診断:『日本式の雇用調整術』
長いこと、日本では年功序列と終身雇用が二本柱として機能してきました。多少ガタがきているものの、今でも多くの企業はこれを貫いていますね。初任給から横一列でスタートし、30代後半で管理職という定番コースは、今も昔も変わりません。
ただし、すべての人間が順調にこのコースに沿ってキャリアパスを昇っていく時代は、大方の企業において、既に終わっています。ずっと成長を維持できている企業でなければ、ポストなんて回ってこないんですね。結果、課長→部長と出世できるのはごく一部、その他大勢の人間は、おそらく平社員として定年を迎えることになるでしょう。
一般的な年功序列型の制度であれば、上記の流れに沿って上に引き上げる幹部候補と、そうでないその他の選別は、30代前半には既に終わっているはずです。
さて、人事的な立場から見た場合、この選抜から漏れてしまったグループは、少々特殊な集団であると言えます。彼らは序列で言うと、それ以上は上にいくわけではありません(選抜から漏れてしまったわけですから)。かといって、大方の企業では定期昇給もないでしょうから、昇給という意味でも横ばいなわけです。一言で言うと、定年まで飼い殺しなんですね。
これは働く側からしてみれば、日々のモチベーションを維持するのすら困難な状況でしょう。もう出世がないからといって、仕事の量が減るわけではないのですから。ただ、経営側からすれば、このグループは上昇志向もない、しかも人件費自体も20代に比べるとそれなりに割高という、なんとも有難くない存在なわけです。
では、残った30代社員をどうするか……。表立ってのリストラはできないので、自発的に離職を促す以外にはない。そう、理由のわからない転勤や出向命令は、日本式の雇用調整術なんですね。実際、30代半ば以降、何らかの形で離職率を意図的に引き上げている企業は、全体の過半数にのぼるはずです。余裕のある企業は、それが“早期退職優遇制度”であり、余裕のない企業は“転勤たらいまわし”であるというわけです。