ブキャナンと並んで激越なのは、リベラル(進歩派)の代表的新聞『ワシントン・ポスト』の14日付オピニオン欄にスティーブン・バノンが寄せた「中国との経済戦争で妥協は無駄だ」である。
バノンはトランプの大統領選勝利の立役者であり、2017年夏まで大統領首席戦略官を務めた後、政権を去った。この3月に訪日した際に懇談する機会を得たが、在野のバノンはホワイトハウスと一定の連絡を取りながら、世界を回って「対中国包囲網」づくりに動いている。ポスト紙があえてバノンのオピニオンを掲載したのは、そうした背景を承知したうえでだろう。
中国との妥協は無駄
そのバノンは、たとえ今回の米中貿易摩擦が何らかの合意で終わったとしても、一時的な「休戦」にすぎず、中国との「経済的かつ戦略的戦い」はこれから何年も続くと主張する。「アメリカの存亡をかけた史上最大の脅威」中国との妥協は無駄である理由として6つの論点を挙げた。
まず、①中国はWTO加盟以来、先進民主主義国家群に対し経済戦争を仕掛けており、その国家資本主義を解体するまでアメリカは戦わなければならない、と主張する。②アメリカの財界やメディアは妥協可能と言うが、根本的に異なる経済モデルの間の衝突が起きており、中国はウソの約束で合意を取り付け、トランプ政権の任期切れを待つ可能性がある、と見る。
③外国の技術を盗んでコスト削減し、国家補助金で支えられる中国の国家資本主義で、大もうけしているのは共産党員であり、改革派は収容所行きになるかもしれない、④中国と合意を達成できなければ、株価暴落で経済崩壊が起きるというのはデタラメ。第1四半期のアメリカ経済は3.2%の伸びを示した。対中妥協は党内外から攻撃を招く。大統領は妥協せず、さらに関税を引き上げてでも中国に圧力を加え続けるべきだ、と論じる。
さらに、⑤徹底的に厳しい合意を中国と結んでも、合意実施の検証措置をつくるのは不可能かもしれないし、数年後にだまされたことに気付くことになりかねない。中国をWTOに加盟させたが、合意実施を検証できずにだまされた、⑥軍事力強化を図る全体主義国家・中国で百万人単位のウイグル人やキリスト教徒・仏教徒が迫害され、強制収容所に送られている。米中の戦いの結果次第で、自由と民主主義と市場経済か、それとも全体主義の国家資本主義のいずれかに世界は向かうことになる。今が分岐点である。
バノンは以上6つの論点を挙げて、「トランプが直感に頼って進むことが、いまこそ最も重要だ」と主張する。
こうしたバノンやブキャナンのような主張が、トランプ支持者らの対中国強硬策への疑念を打ち払おうとしているのが、トランプ派内の言論の現状だ。さらに中国の意図について、経済のみならず安全保障も含め、地球レベルで地政学を論じる、高度なトランプ派メディアの言説も登場している。いずれも「中国滅ぶべし」という主張である。それらについては、回をあらためて紹介したい。
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